研究実績の概要 |
本研究は、抗レトロウイルス療法(ART)中の感染者についてメモリーT細胞がどの程度保たれているのか、またそれらメモリーT細胞からHIV特異的CTLを誘導することができ、慢性感染時のCTLと同様の感染細胞傷害能力を保持しているかどうかの疑問を解明することを目的としている。 これまで我々のグループは、無治療慢性日本人HIV-1感染者のCTL反応と感染者の病態を解析することで、HIV-1コントロールに重要な役割を持つCTLを明らかにしてきた。その結果、合計15種類のHIV-1増殖抑制能を有するCTLを特定した。本年度ではこれら15種類のうち13種類を対象として、各エピトープに対するCTL反応をIFN-γ ELISPOT assayによって解析した。対象とした検体は、先行研究にて慢性感染時に何らかのCTL反応が確認されており、ART後に引き続き採血が可能であった18名の感染者から血液を収集した。収集した血液検体よりPBMCを分離しCTL反応を調べたところ、ART開始後数年経過しているものの18名中13名で、何らかのエピトープに対するCTL反応(>100 SFU / 1,000,000 PBMC)が認められた。ただし、慢性感染時より大きく減弱しており、もともと200 SFU程度のCTL反応であったエピトープに関しては、陽性反応が認められないものが多かった。また慢性感染時よりCTL反応が強く検出された検体が1名みられた。 本年度の成果により、長期にわたるARTにより抗原に即座に応答することのできるメモリーT細胞の数が予測通りに減弱していることが明らかとなった。ただ、慢性感染時にCTL反応が強かったものに関しては数多くの検体で陽性反応が認めれた。今後慢性感染時のCTLと機能を比較することで、リザーバー排除の行う場合の有用なCTLの候補を絞っていくことができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、慢性感染時の血液が存在しかつ抗レトロウイルス療法(ART)下の採血が可能であった18名の日本人HIV-1感染者から血液検体を収集することができた。また、それら検体を用いて13種のエピトープ(Gag TL9, Gag MI8, Gag RI8, Gag WV8, Gag NL11, Gag AA9, Pol SV9, Pol SI8, Pol LA9, Pol IT10, Pol GI8, Pol IY11, Nef MY9)に対するCTL反応を解析し、慢性感染時より減弱するものの多くの検体でCTL反応(>100 SFU / 1,000,000 PBMC)が認められることを明らかにした。また100 SFU以下であっても全く反応が認められなくなる例は少なく、ARTによってHIV-1抗原がほとんど存在しなくなったとしても数年はメモリーT細胞が残存していることが確かめられた。 一方で、CTL反応が陰性(<100 SFU / 1,000,000 PBMC)であったものでも、メモリーT細胞がわずかに残存しているのではと考え、それぞれのエピトープに対するテトラマーを作製し解析を行った。その結果、わずかではあるもののテトラマー陽性CD8+T細胞の集団が確認され、テトラマー染色の方がELISPOTよりも高い感度であることが確かめられた。そのため、今後の実験ではテトラマーを用いてメモリーT細胞の解析を行うことを検討している。
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