ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は、人類の約半数の胃に感染する病原性細菌であり。慢性胃炎、胃癌、胃十二指腸潰瘍等の疾患発症に関わる。しかし、実際は、ピロリ菌感染者の数%しか胃癌を発症せず、また、生涯を通じて殆ど症状が現れない不顕性感染例が存在するなど、疾患の発症機序には不明な点が多い。そこで我々は、胃独自に生息する細菌叢に注目し、次世代シーケンスによる16Sメタゲノム解析により、胃マイクロバイオームを明らかにしピロリ菌感染症との関連を明らかにすることを研究目的とした。さらに、これらゲノム解析手法を応用し、ピロリ菌の病原性等について詳細な検討した。 本研究では、細菌存在数の非常に少ない胃粘膜組織からのDNA抽出方法を確立し、次世代シーケンサーによる16Sメタゲノム解析を実施、Qiime等の解析パイプラインにてOperational Taxonomic Unit(OTU)を決定し、胃マイクロバイオームとピロリ菌感染症、胃癌さらに地域性との関連について解析を行った。ピロリ菌OUT数、病理評価および抗ピロリ菌血清抗体値等を比較した結果、ピロリ菌OTU数は、胃粘膜の炎症や萎縮と相関性が高く、また、ピロリ菌非感染患者では、地域ごとに特徴的な細菌叢を構成していることが伺えた。さらに、胃癌症例と非胃癌症例を比較した検討では、胃癌発症率が世界で最も高いモンゴルにおいて、予想に反して、胃癌患者におけるピロリ菌OTU量の割合が低く、ピロリ菌以外の特定の細菌の増加が確認されるなど、非常に興味深い結果が得られた。即ち、これら細菌が胃癌発症に何らかの影響を与えている可能性が考えられ、PICRUStにより機能予測解析を実施し、学術論文を報告した。また、モンゴルやインドネシアを含む計8か国との連携した国際共同研究ネットワークを築き、ワークショップを開催するなど、研究体制の拡充や教育にも貢献できた。
|