季節性ヒトインフルエンザA型・B型ウイルス(IAV/IBV)は、ヒトにおいては上気道感染を起こすウイルスとして広く知られている。一方でIAV/IBVの症例の中には、腹痛・嘔吐・下痢といった消化管症状を認める症例が散見されている。過去の研究においては、腸管感染に肯定的な報告・否定的な報告の両方があり、IAV/IBV腸管感染の可否については未だ結論が出ていない。以前に我々は前向き観察研究を行い、IAV/IBVの腸管感染を強く示唆する臨床データを報告した(Hirose et al. Clin Microbiol Infect 2016、2017)。さらに我々はIAV/IBVが腸管感染を起こすメカニズム解明の一端として、IAV/IBVが腸管内の環境に耐え、不活化されずに感染性を維持するメカニズムの解明に着手している(Hirose et al. J Infect Dis 2017)。本研究では、IAV/IBVの腸管感染を証明すること、IAV/IBVが腸管内の環境で不活化されずに感染力を有したまま小腸・大腸に到達し、腸管上皮に感染を起こすメカニズムを解明することを目的としている。 本年度はヒト結腸腺癌細胞(HCT-116) の3次元培養によってスフェロイド形成を行い、スフェロイドに対するIAV感染実験を行った。その結果、高率に感染が確認された。 次にマウスの腸管組織から腸オルガノイドの樹立を行い、IAV感染実験を施行した。その結果、腸オルガノイドに感染細胞が確認され、現在どの細胞が感染を起こしているのか解析を進めている。 最後に、剖検体から採取した腸管を用いたex vivoでの感染実験を行った。腸管を採取し洗浄後、腸管粘膜上に一定量のIAVを塗布しインキュベートさせた後にホルマリン固定を行い病理標本を作製した。免疫組織化学染色を施行した結果、腸管上皮組織にIAV抗原陽性細胞を複数認めた。
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