研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの重症化リスクファクターとして年齢、慢性疾患、糖尿病が知られている。特に生活習慣病である糖尿病はゲノムワイドなDNAメチル化ステートの変化が見られることが報告されている。一方で、喫煙や肥満といった生活習慣と関係するファクターもインフルエンザウイルスに対する感受性を変化させることから、インフルエンザウイルス感染におけるエピジェネティックステートの重要性が示唆される。そこで、同一の遺伝的背景をもつ気管支上皮細胞から樹立した不死化細胞を用いて、感染前の特定部位のエピジェネティックステートの感染への関与を検討した。感染後のインフルエンザウイルス増殖性が大きく異なる株を2株選定し、それに加え一般的に用いられるA549細胞を用いた。5-アザ-2デオキシシチジンを用いてゲノムワイドに脱メチル化を誘導すると、ウイルス増殖が抑制されることが観察された。ウイルス増殖をより抑制した細胞ではIFN-β、TNF-α産生が他の細胞株と比べ高く、これがウイルス増殖抑制の要因であると考えられた。ゲノムワイドに脱メチル化すると、解析した全細胞株で、これらサイトカイン産生の亢進が確認された。予期した通り、IFN-βは増殖抑制に大きく貢献し、脱メチル化によって誘導された産生量はウイルス増殖抑制に十分量であった。そこでIFN-β産生のシグナルパスウェイに着目し遺伝子発現解析を行ったところ、TLR3, IRF7, IL-1β, IL-6, IFN-βの遺伝子が大きく発現が異なっていた。これら遺伝子発現が大きく異なるこれら遺伝子のエピジェネティックステートが大きく異なると考えられる。 以上から、これまでに感染前のCpGメチル化ステートが季節性インフルエンザのウイルス増殖に関与することが明らかになった。今後はピックアップした遺伝子群に着目し、エピジェネティックステートの解析を行う。
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