研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの重症化リスクファクターとしてエピジェネティックステートに着目し解析を進めてきた。同一の遺伝的背景をもつ気管支上皮細胞から樹立した不死化細胞のうち感染後のインフルエンザウイルス増殖性が大きく異なる2株を用いて、感染前の特定部位のエピジェネティックステートの感染への関与を検討している。昨年度までに、5-アザ-2デオキシシチジンを用いてゲノムワイドに脱メチル化を誘導すると、IFN-β産生量増加することでウイルス増殖を抑制すること、感受性の異なる株間でIFN-β産生のシグナルパスウェイではTLR3, IRF7, IL-1β, IL-6, IFN-βの遺伝子が大きく発現が異なっていることを報告した。 これら遺伝子のプロモーター部位におけるCpGメチル化ステートを解析したところ、IRF7とIFN-βは高メチル化ステートを示したが、その他の遺伝子はメチル化がほとんど見られず、脱メチル化の影響はIRF7とIFN-βが強く受けていることが考えられた。株間の比較では、IFN-βの-270、IRF7の-411に位置するCpGメチル化割合が高感受性細胞で高いことがみられたが、IFN-βの+21, +54, +64、IRF7の-578~-316のCpGではどちらの細胞も高メチル化状態であることが観察され、大きな差がないことがわかった。そこで、CpGおよび高メチル化状態のIFN-βの+21, +54, +64、IRF7の-578~-316のCpGを標的とした脱メチル化処理を行ったところ、IFN-βのmRNAの発現上昇が見られ、インフルエンザウイルス感染後の複製ウイルスコピー数の低下も見られた。遺伝的背景が異なる一般的な呼吸器細胞株であるHEp-2細胞においても同様の効果がみられたことから、特定のCpGメチル化ステートの変化により、ウイルス感染防御が誘導されることが示唆された。
|