近年、ESBLやカルバペネマーゼを産生するEscherichia coli ST131クローン(ST131)の世界的なパンデミックが問題視されているが、その原因は未だ明らかになっていない。われわれはST131パンデミックの原因を追究すべく、MALDI-TOF MSを用いてST131特異的タンパク質を探索し、その同定および機能予測を試みた。対象は国内医療機関31施設から分離されたESBL産生E. coli 197株(うちST131:98株)とし、ClinProToolsソフトウェアを用いてST131特異的ピークを抽出した。そのピークを示すタンパク質は逆相カラムによるHPLCで単離精製し、LC-MS/MSを用いたタンパク質同定、さらにDNAシークエンス解析を実施した。また、これらによって同定されたタンパク質は各種ウェブデータベースを用いてその機能予測を試みた。 本研究では、ST131特異的タンパク質として、7655 m/zを示すE34Aアミノ酸置換を有するYahOタンパク質(ペリプラズム層局在、機能不明)が抽出され、またその他にも11783 m/zを示す可溶性チトクロームb562(ペリプラズム層局在、機能不明)、9710 m/zを示すHdeA(ペリプラズム層局在、酸ストレス応答に関与)および8351 m/zを示すYjbJタンパク質(細胞質局在、機能不明)などが検出された。また、11783 m/zを示す可溶性チトクロームb562において、ST131細分類Cクレードに特有の配列を発見した。現在のところ機能不明なYahOや可溶性チトクロームb562はそのタンパク質間相互作用予測解析からバイオフィルム形成に関与している可能性が示唆された。
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