研究課題/領域番号 |
18K16193
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
岡部 圭介 富山大学, 附属病院, 医員 (00770702)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | NAD / αケトグルタル酸 / 脂肪細胞分化 / 3T3-L1細胞 / エピジェネティクス / ヒストン脱メチル化 |
研究実績の概要 |
脂肪細胞分化におけるNADの必要性に関する検討として、3T3-L1細胞にsiRNAを用いてNamptをノックダウン、またCRISPR/Cas9を用いてNamptをノックアウトする実験を行った。いずれもNamptの発現はある程度低下したものの、NADレベルや脂肪細胞分化についてはほとんど影響がみられなかった。この原因としてFK866による薬理学的なNampt阻害と比較し、Namptの作用の抑制が不十分であったためと考えられる。また、NMNを加えて3T3-L1を培養したところ細胞内NMNおよびNADレベルは増加したもののそれだけで3T3-L1が分化することはなかった。これらの結果から、NAD合成亢進は脂肪細胞分化の必要条件になっているものの十分条件ではないことが明らかとなった。また、脂肪細胞分化を抑制するには、一定以上Namptの活性を抑制しNAD合成を低下させる必要があることが示唆された。次にNADが脂肪細胞分化に関わる機序を検討するためαケトグルタル酸(aKG)およびaKGがコファクターとして機能する脱メチル化の関与を検討した。ヒストンリジン脱メチル化酵素阻害剤を添加すると3T3-L1細胞分化は抑制されたことから、分化に脱メチル化が寄与することが示唆され、既報に矛盾ない結果だった。抗ヒストンH3K9me3抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行い、リアルタイムPCRによりPPARγプロモーター領域の脱メチル化を評価したところ、通常分化に伴いH3K9me3の脱メチル化が生じること、この脱メチル化がaKGレベルに依存して起こることが明らかとなった。さらにこの脱メチル化によってPPARγの発現が亢進すること、結果として脂肪滴の蓄積が進むことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究から3T3-L1細胞分化にNAD合成亢進が必要となること、NAD合成亢進が代謝の変化と脱メチル化を介してPPARγの発現を制御するという機序を示すことができた。当初、gain-of-functionの実験としてアデノウイルスベクターを用いたNampt過剰発現を行うことを計画したが、NMNを添加することによりNMNの上昇が得られたため現時点ではさらに過剰発現実験を行う意義は少ないと判断した。3T3-L1細胞に代えて、野生型C57BL/6の脂肪組織から抽出した前駆脂肪細胞を含むStromal Vascular fraction(SVF)を用いた実験はまだ行えていないが、後述の遺伝子改変マウスを用いたEx vivo実験と合わせて行うことを検討している。タモキシフェン誘導性前駆脂肪細胞特異的Nampt KOマウス(PDGFRα-CreERT2 Nampt flox/flox)を作製したが、タモキシフェン投与によるNamptのノックアウトが十分でなかった。このため同ノックインマウスを作製し同様の検討を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
現在作製中のPDGFRα-CreERT2 Nampt flox/floxノックインマウスを用いて生体での脂肪細胞分化におけるNADの役割について当初の計画通り解析を行う。NAD代謝およびaKGのエピジェネティクスへの影響に関してはChIP-qPCRにより一定の成果が得られたが、ChIP-seq、バイサルファイト法等を用いてさらに広範な領域でのエピジェネティクスの変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変マウスの解析、ChIP-seq等の実験を次年度に行う予定としたため。
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