研究課題
糖尿病の臨床において、特に肥満症を合併する2型糖尿病症例などでは治療に難渋することがしばしば起こります。これはインスリン抵抗性の原因となる肥満のコントロールが困難であることが原因の一つとなっています。このことから肥満の病態、脂肪細胞分化のメカニズムは代謝疾患治療戦略において重要な分野となっています。脂肪細胞分化機序は古くから研究されており、転写因子カスケードによる精緻な分化制御機構が明らかとなっていた一方で、分化と代謝の変化との関連はこれまでほとんどわかっていませんでした。代謝はエピゲノムを介して遺伝子発現制御に影響を及ぼすことが知られています。そこで私はまず脂肪細胞分化モデルである3T3-L1前駆脂肪細胞を分化誘導し、質量分析計を駆使したメタボローム解析を行うことで脂肪細胞分化に伴う代謝物の変化を明らかにしました。ここでNicotinamide adenine dinucleotide (NAD)の産生亢進とこれに伴うクエン酸回路、解糖系での代謝の亢進が起こることに着目してさらに解析を進め、クエン酸回路の中間体であるαケトグルタル酸の増加により脂肪細胞分化の主要制御因子であるPPARγのプロモーター領域のヒストン脱メチル化が引き起こされ、PPARγの発現を活性化するという“エピゲノムを介した代謝による分化制御機構”を初めて明らかにしました。この研究成果から“代謝”や“エピゲノム”が糖尿病等の新たな治療ターゲットになる可能性が示唆されました。
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Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 8 ページ: -
10.3389/fcell.2020.586179