前年度に樹立した「蛍光標識脂肪酸を用いたin vivo脂肪酸トレーシング実験系」を用いて、肥満しないノックアウトマウスの血中脂肪酸動態を解析した。蛍光標識脂肪酸トレーサーを経口投与し、1日後まで血中蛍光強度を経時的に解析したところ、肥満しないマウスでは野生型と比べ、1時間後のピーク値は低くないが、脂肪酸の半減期が延長していた。すなわち本マウスの消化管で脂肪酸は問題なく吸収されているが、種々の臓器が脂肪酸を取り込んでいないという肥満抑制機序が明らかになった。また本トレーサー系を用いると、マウス血漿から蛍光標識リポ蛋白を単離することができ、それを培養細胞に取り込ませフローサイトメトリーで蛍光の定量評価が可能である。太らないマウス由来の蛍光標識リポ蛋白を培養細胞に取り込ませたところ、野生型由来のリポ蛋白と比較し差がなかった。したがって、本研究の開始時に立てた幾つかの作業仮説のうち、マクロファージがリポ蛋白を修飾し、各臓器でリポ蛋白中の脂質が利用されにくくなっているという仮説は否定され、今後肥満抑制分子を同定するための探索範囲を絞ることができた。 全体として、本研究の補助期間中にImpact factor 5以上の英文論文を2本発表することができ、十分な成果と考えている。 また最終年度である2021年中に、本研究の継続課題がJST創発的研究支援事業に採択され、とても良い形で発展的終了を迎えることができた。今後は同事業にて肥満抑制分子を特定し、脂質代謝分野の発展と、新規肥満治療薬の開発を目指している。
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