我々のグループではこれまでDPP-4を血糖降下のターゲットとしてのみならず、膜結合タンパクとして細胞外基質と細胞内ネットワークの相互作用を行う重要な分子であると考え研究を行ってきた。これまでの研究結果からは、DPP-4阻害は抗炎症・線維化抑制作用を介し糖尿病腎症の発症・進展抑制に寄与する可能性が示唆される。しかし、解析を進めていく中で病態・組織によりDPP-4阻害が及ぼす影響が異なることが明らかとなった。DPP-4はセリンプロテアーゼでありDPP-4阻害による種々の変化は、実際の生体内では膜タンパクであるDPP-4を阻害することによる直接作用以外にDPP-4の酵素活性低下により、その基質が増加することによる変化の可能性もある。実際に我々はin vitroにおいてDPP-4阻害薬投与においてDPP-4阻害薬投与によりDPP-4の基質であるCXCL12及びその受容体のCXCR4が増加し、CXCL12/CXCR4シグナル依存的にmTORが活性化し、EMTプログラムが誘導されること、in vivoではCXCR4阻害薬投与により腫瘍サイズの縮小・転移が抑制されることを確認している。EMTは必要条件ではないが癌の浸潤・転移、化学療法への耐性獲得に関与するとされており、今回の検討ではDPP-4阻害が、癌の増殖能及び化学療法への耐性獲得に関して検討を行った。 検討では、DPP-4をノックダウンした乳癌細胞はEMTプログラムの誘導を介してドキソルビシンへの耐性を獲得することが明らかとなった。 さらに、実際の患者の予後と手術時の標本でのDPP-4及びCXCR4の発現量の相関に関しての検討を行なったところ、Stage Ⅰの乳癌組織においてDPP-4の発現が増加、CXCR4の発現が減少しているもの、およびStage Ⅳの乳癌組織においてDPP-4の発現が減少、CXCR4の発現が増加するものがあることが見出された。
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