研究課題/領域番号 |
18K16217
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
椎村 祐樹 久留米大学, 付置研究所, 助教 (40551297)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グレリン受容体 / 立体構造 / GPCR |
研究実績の概要 |
グレリンは、胃から分泌される摂食亢進ホルモンである。分泌されたグレリンは、脂肪酸修飾を受けて活性型となり、グレリン受容体に受容されることで細胞内にシグナルを伝達する。一方で、脂肪酸修飾を受けていないグレリンは、受容体に結合することができない。このように脂肪酸の修飾によって活性が制御されるホルモンはグレリンのほかに報告されていない。つまりグレリン受容体は、グレリンの脂肪酸修飾の有無を厳密に認識するための分子機構を備えていると考えられる。 結晶構造解析法によって、アンタゴニストが結合したグレリン受容体の立体構造を決定した。グレリン受容体と構造既知のGタンパク質共役受容体 (GPCR) を比較したところ、グレリン受容体のリガンド結合ポケットには、2つの特徴があることがわかった。ひとつは、極性アミノ酸の局在である。これはペプチド受容GPCRで見られる特徴である。そこで、グレリン受容体の極性アミノ酸をアラニンに変異させたグレリン受容体変異体を作製し、活性型グレリンとの結合実験を行なったところ、活性型グレリンとの結合能が減衰することが確認された。もうひとつの特徴は、膜貫通ヘリックス間の疎水性に富んだ大きな隙間構造である。これは、脂質受容GPCRで見られる特徴である。そこで、この疎水的な環境を供給しているフェニルアラニン群をアラニンに変異させて活性型グレリンとの結合実験を行なったところ、活性型グレリンとの結合能が減衰した。これらのことから、グレリン受容体は、これらの構造的特徴を融合させることで、活性型グレリンを認識していることが示唆された。つまり、グレリン受容体はペプチド受容GPCRと脂質受容GPCRの両方の特徴を有するハイブリッド型のGPCRであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンタゴニスト結合型のグレリン受容体の立体構造情報から、グレリン受容体が活性型グレリンを認識する分子機構を予測し、生化学的手法を用いて、その分子機構の一端を明らかにした。この研究成果は、2020年にNature Communication誌に発表した。一方で、グレリン受容体が活性型グレリンを認識する直接的な知見を得るに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、活性型グレリンと結合状態にあるグレリン受容体の立体構造を決定して、グレリン受容体がどのようにしてグレリンの脂肪酸修飾の有無を認識しているのか、明らかにする。これまでは、結晶構造解析法での構造決定を目指してきたが、結晶構造解析法の欠点として、結晶作製のストラテジーが確立されていないことが挙げられる。つまり、結晶構造解析法を行うためには、良質なタンパク質結晶を得ることが必要であるが、これは、塩の種類や濃度、pHの異なる1000条件以上の緩衝液に精製タンパク質を加え、一定期間待つというものでストラテジーが確立されていない。これまでに活性型グレリンと混和したグレリン受容体の結晶化を複数回行ったが、結晶を得られなかったので、結晶構造解析法での構造決定は断念して、今後はクライオ電子顕微鏡法での構造決定を目指す。クライオ電子顕微鏡法は、結晶を必要とせず、精製タンパク質を電子顕微鏡用のグリッドに展開後、凍結すれば比較的簡単にタンパク質粒子像を取得することができる。すでにクライオ電子顕微鏡法用に精製タンパク質を調整し、粒子観察を行なっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、予定していた結晶回折実験や電子顕微鏡実験ができなかったため。次年度の電子顕微鏡実験やそのためのサンプル調整に使用する予定である。
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