高血糖に伴う終末糖化産物AGEsの蓄積と受容体RAGEのシグナルの亢進は糖尿病性神経障害(DPN)の発症因子の一つである。RAGEはマクロファージ(Mφ)に高発現し、RAGEシグナルの亢進は炎症性Mφ(M1)への極性変化を促す。実験的DPNでは坐骨神経(SN)にMφの浸潤が増加するが、病態における意義は不明であった。申請者らは、糖尿病におけるAGEs-RAGEシグナルの亢進がM1の浸潤を介して神経を障害するのではないかという仮説を立てた。本研究ではM1が神経障害を引き起こす機序を解明し、新規治療法の開発へと展開することを目的とした。 最終年度ではマウス対する放射線照射と骨髄移植により、末梢神経においてMφ特異的にRAGEを欠損するマウスモデル(BMR)、対象として野生型同士の骨髄移植モデル(BMW)を作出し、1型糖尿病を発症させ(-D)、その表現型を解析した。BMRDではDPNの発症が抑制された。SNにおけるM1の浸潤はBMWDで増加したが、BMRDでは非糖尿病型と同等であった。BMWDではSNにおけるインスリン感受性が低下しており、Fluoro-Goldにより評価した逆行性軸索輸送(RAT)も障害されていたが、BMRDではいずれも非糖尿病型と同等であった。BMWDでは脊髄後根神経節のニューロンの平均サイズが小さくなっていたが、BMRDではそれらも非糖尿病型と同等であった。これらの結果から、Mφ特異的なRAGEの欠損により、前年度迄に解析した全身性RAGE欠損マウスに類似したDPNの表現系が再現されることが示され、M1が直接的にDPNの病態に関わることが解明され、炎症に伴うインスリンシグナルの減弱がRATを低下させるという神経障害機序も明らかとなった。本研究によりMφにおけるRAGEシグナルあるいは軸索におけるインスリンシグナルがDPNの治療標的となる可能性が示された。
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