研究課題/領域番号 |
18K16231
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下 直樹 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (10814064)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵β細胞 / 高血糖毒性 |
研究実績の概要 |
糖尿病において、高血糖が膵β細胞機能を障害する現象(高血糖毒性)のメカニズムに関わる新規因子の探索・解析を進めている。昨年度までに、膵β細胞機能における役割は未知だが、既報で示される性質からは膵β細胞機能での重要な役割が強く推察される、Tmem163およびCox6a2という高血糖毒性感受性遺伝子を同定している。 Tmem163は膵β細胞インスリン分泌顆粒膜への高度の限局が示唆される因子で、本年度は昨年度に続き、成体において膵β細胞特異的にTmem163遺伝子をノックアウト可能なマウス(以下βTmem163KO)の解析を進めてきた。昨年度に示していた、対照群に比べて認められたβTmem163KOでのわずかな耐糖能の悪化(腹腔内ブドウ糖負荷試験による評価)は、サンプル数の追加で有意差が消失した。一方、随時血糖は対照群に比べてβTmem163KOで有意に低値であり、腹腔内負荷に比べてより安定した負荷が得られる経口ブドウ糖負荷試験で改めて耐糖能を評価したところ、対照群に比べてβTmem163KOで血糖値は有意に低値、インスリン値は有意に高値を示した。2群間でインスリン抵抗性に差を認めず、Tmem163の発現量減少はインスリン分泌増加をもたらすことが明らかになった。さらに電子顕微鏡による解析では、βTmem163KOのインスリン分泌顆粒の密度低下が認められ、免疫染色ではプロインスリンの増加が確認されたことから、Tmem163はインスリン分泌顆粒の成熟に重要な因子であることが強く示唆されている。 Cox6a2はミトコンドリアCOXⅣのsubunitであるが、本年度は全身性ノックアウトマウス(Cox6a2KO)の解析を進めてきた。高脂肪高ショ糖食負荷後の、腹腔内ブドウ糖負荷試験により評価される耐糖能は、対照群に比べてCox6a2KOで有意な増悪を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tmem163に関して、昨年度までは対照群に比べてβTmem163KOで耐糖能が悪化するとの結果を得ていたが、再現性が十分に得られなかった。しかしながら、データの蓄積と解析を継続する中で、対照群に比べてβTmem163KOではむしろ血糖低値・インスリン高値が認められ、当初の仮説とは反対の結果が、再現性をもって得られるようになった。これには、手技の安定化と解析手法の最適化が寄与しているものと考えている。さらに、βTmem163KOにおけるインスリン分泌顆粒の未熟性が強く示唆される結果が得られており、これは、Tmem163が細胞内亜鉛の制御に関わる可能性の報告(Cuajungco MP, et al. Traffic, 2014)と矛盾しないものと想定される。 Cox6a2に関して、昨年度までに、膵β細胞株であるMIN6細胞を用いたノックダウン実験にて、活性酸素がノックダウン群で増加することを確認していた。本年度はマウスを用いたin vivo実験において、高脂肪高ショ糖食負荷後の耐糖能が、対照群に比べてCox6a2KOで有意に増悪することが示された。これまでの結果からは、Cox6a2の発現量低下による酸化ストレスの増大が、膵β細胞機能障害につながっている可能性が考えられた。 いずれの因子についても、膵β細胞機能における役割が明らかになりつつあり、おおむね順調な進捗と考える。
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今後の研究の推進方策 |
Tmem163に関して、Tmem163のインスリン分泌顆粒の成熟における役割を明らかにする。具体的には、βTmem163KOを用いて膵β細胞内の亜鉛の分布や、グルコース刺激時の亜鉛の動態を定性的・定量的に評価する。 Cox6a2に関して、Cox6a2KOの膵島における活性酸素を測定する。また、膵β細胞機能(糖負荷試験時のインスリン値および単離膵島のグルコース応答性インスリン分泌)の評価を行う。さらに、本年度に膵β細胞特異的ノックアウトマウス(βCox6a2KO)が作製できたことから、来年度は上記と同様の解析をβCox6a2KOにおいても進める。 加えて、上記2因子に関して、高血糖毒性に対する感受性をもたらす機序について解析する。すなわち、発現制御領域を同定し、どのような転写因子が関与しているかを明らかにする。それにより、高血糖毒性に関わるさらに上位の制御因子の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象遺伝子の発現調節機序の検討に関して、予定していた解析数を当初の想定より削減したため、次年度使用額が生じた。 次年度には、異なる条件下のマウスも対象として同解析を実施することで、発現調節機序の検討をより詳細に進めたいと考えている。
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