糖尿病において、高血糖が膵β細胞機能を障害する現象(高血糖毒性)のメカニズムに関わる新規因子の探索・解析を進めてきた。これまでに、膵β細胞機能における役割は未知だが、既報で示される性質からは膵β細胞機能での重要な役割が強く推察される、Tmem163およびCox6a2という高血糖毒性感受性遺伝子を同定した。 Tmem163は、マウス膵β細胞インスリン分泌顆粒膜への高度の限局が示唆される因子である。成体で膵β細胞特異的にTmem163遺伝子をノックアウト可能なマウス(以下βTmem163KO)の解析において、随時血糖は対照群に比べてβTmem163KOで有意に低値を示した。また、経口ブドウ糖負荷試験で評価される耐糖能に関して、対照群に比べてβTmem163KOで血糖値は有意に低値、インスリン値は有意に高値を示した。2群間でインスリン抵抗性に差を認めず、Tmem163の発現量減少はインスリン分泌増加をもたらすことが明らかになった。さらに電子顕微鏡による解析では、βTmem163KOにおけるインスリン分泌顆粒の密度低下が認められ、定量により成熟インスリンの前駆体であるプロインスリン含量の増加が確認された。以上より、Tmem163はインスリン分泌顆粒の成熟および血糖応答性の適切なインスリン分泌に重要な因子であることが強く示唆された。 Cox6a2はミトコンドリアCOXⅣのsubunitであり、膵β細胞株MIN6におけるノックダウンにより、細胞内酸化ストレスの増大が認められた。また、全身性ノックアウトマウス(Cox6a2KO)の解析において、高脂肪高ショ糖食負荷後に腹腔内ブドウ糖負荷試験により耐糖能を評価したところ、対照群に比べてCox6a2KOで有意な増悪を認めた。 本研究を通じ、膵β細胞高血糖毒性に深くかかわる2つの遺伝子の同定、およびそれらの膵β細胞における役割の解明に寄与した。
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