本研究の目的は、カルシウム感知受容体(CaSR)が2型糖尿病の新たな治療標的となり得るかを解明することである。これまでの検討では、恒常的にCaSRシグナルが活性化するヒト活性型変異CaSR(A843E)を導入した常染色体優性低Ca血症1型(ADH1)モデルマウス(ADH-KIマウス)では耐糖能の悪化が認められることがわかっていた。既報ではADH-KIマウスの耐糖能悪化には膵島における膵β細胞量の減少がかかわると報告されているが、研究代表者の検討では免疫組織化学染色による病理組織検査で、野生型マウスとくらべADH-KIマウスの膵島におけるインスリン陽性細胞とグルカゴン陽性細胞の形態的な変化は認められなかったこと、単離膵島を用いた検討で膵島1個当たりのインスリン含量は野生型マウスとADH-KIマウスで差がなかったが、単離膵島1個当たりのインスリン分泌が野生型マウスよりADH-KIマウスで低下していたことから、CaSRシグナルの恒常的活性化によるインスリン分泌低下の機序は膵β細胞量の減少ではなく、インスリン分泌機構の障害によるものと考えられた。グルコース応答性インスリン分泌(GSIS)が低下した膵β細胞株MIN6とマウス骨髄から採取した間葉系幹細胞(MSC)を共培養し、MIN6にMSCからミトコンドリアを供与したところMIN6のGSISが回復した。ミトコンドリアは小胞体と並ぶ細胞内Caストアであり、CaSRシグナルの恒常的活性化によるインスリン分泌機構の障害にミトコンドリアが関与している可能性が示唆された。現在、膵β細胞株MIN6に恒常的にCaSRシグナルが活性化するヒト活性型変異CaSR(A843E)をノックインした細胞を作製し、分子生物学的な機序の解明を進めている。
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