研究課題/領域番号 |
18K16240
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
白川 純 横浜市立大学, 医学部, 助教 (70625532)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞 / 膵島 / 不均一性 / 脱分化 |
研究実績の概要 |
膵島は均一な集団ではなく、形態的にも、さらにインスリン分泌能や膵β細胞増殖能においても不均一であり、それらは膵臓の解剖学的な空間的位置により規定されていることを見出した。 膵臓の頭部と尾部の組織を比較したところ、通常食および代償性の膵β細胞増殖を認める高脂肪食負荷マウスの両者において、尾部の膵島では頭部の膵島に比べて膵α細胞の割合が3倍程度に有意に増加していることを見出した。また、体部の膵島は、尾部の膵島と同様の形態を示すことが明らかとなった。ソマトスタチンを産生するδ細胞を、頭部、体部、尾部でそれぞれ検討したところ、各膵島でδ細胞の割合に有意な変化は認めなかった。次に、pancreatic polypeptideを産生するPP細胞について解析を行った。PP細胞はα細胞とは逆に、尾部の膵島と比較して頭部の膵島で有意に増加していることが明らかとなった。 さらに、通常食マウスならびに高脂肪食マウスのどちらにおいても、膵島のインスリン含量は有意な差は認めないものの、尾部の膵島では頭部の膵島に比べて有意にグルコース応答性インスリン分泌能が増加していることも観察した。 膵島のサブタイプが膵β細胞の代償ならびに障害・治療反応性の過程における挙動について、高脂肪食負荷後における代償性の膵β細胞の量および増殖を解析したところ、尾部の膵島でのみ有意に増加し、頭部の膵島では有意な差は認めなかった。これより、高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性により誘導される代償性の膵β細胞増殖は、尾部と頭部では異なることが示唆された。この時の膵島における遺伝子発現を解析したところ、CyclinD2やFoxM1等の代償性膵β細胞増殖に関与する遺伝子発現上昇も尾部の膵島特異的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の解析結果に加え、膵島機能の不均一性に関する分子基盤を明らかにすべく、同一マウスから採取した頭部および尾部の膵島を用いて、遺伝子発現マイクロアレイおよびプロテオミクス解析を施行した。頭部および尾部で特異的に発現上昇・発現低下する遺伝子群を同定した。これらの遺伝子群の検証を単離膵島のqPCRで行ったところ、95%以上の高い再現性が得られた。頭部と尾部の膵島にて有意に発現変化のあった分子群でpathway解析を行ったところ、電子伝達系、酸化的リン酸化、TCAサイクル、解糖系、カルシウム制御等のインスリン分泌にかかわる経路の発現変化を認めた。さらには、インスリンシグナリング、EGFR経路、エストロゲン、セロトニン、MAPKと膵β細胞増殖にかかわる経路の発現変化も同時に認められた。さらに、アポトーシスやサーカディアンリズムの経路への関連性も示唆された。膵β細胞の分化や成熟化に関与する、MafAやNeurog3の発現が頭部と尾部で異なっていることから、膵β細胞の可塑性に頭部と尾部で差があることが考えられた。そこで、膵β細胞の可塑性について、トレーサー実験を検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
タモキシフェン誘導性に膵β細胞特異的(Ins1-Cre)にROSA26プロモーター下で安定的にGFPを発現する、膵β細胞トレーサーマウスを用いて、GFP陽性の膵β細胞が、非膵β細胞へ分化転換する際の膵島における不均一性を解析していく。
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