研究課題/領域番号 |
18K16241
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
奥山 朋子 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (90806928)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン感受性 / 細胞外マトリックス |
研究実績の概要 |
我々は、膵島におけるグルコキナーゼの標的分子として、細胞外マトリックスにおける弾性線維形成に必須の分泌蛋白であるFibulin-5(Fbln5)を同定した。Fbln5欠損マウスを入手し解析したところ、通常食にて体重非依存性にインスリン感受性が亢進しており、高脂肪食誘導性の肥満、高インスリン血症、インスリン抵抗性、脂肪肝ならびに脂肪細胞の肥大化が抑制された。また、Fbln5欠損マウスではピルビン酸負荷による肝臓での糖新生も抑制され、肝のインスリン感受性改善が示唆された。 グルコースクランプによる解析により、Fbln5欠損による全身のインスリン抵抗性の改善傾向を認めた。高脂肪食負荷マウスの肝臓においては、Fbln5欠損によりインスリンシグナルが改善したが、初代培養肝細胞におけるインスリンシグナルの検討や、アデノウイルスを用いた肝細胞株あるいはマウス肝臓におけるFbln5過剰発現実験の結果から、Fbln5の肝における作用は多臓器を介した臓器連関あるいは分泌蛋白としての作用によることが想定された。 さらに我々はFbln5欠損マウスの肝においてインスリン透過性の亢進を認めており、我々はFbln5欠損によるインスリン感受性亢進の機序として、組織へのインスリン透過性の亢進が寄与している可能性を見出している。 またFbln5欠損マウスの皮膚において皮脂腺の萎縮を認めた。Fbln5欠損により寒冷刺激への易感受性および脂肪組織における熱産生・脂肪酸燃焼関連遺伝子の発現上昇を認めた。野生型マウスにおいて高脂肪食負荷により皮膚Fbln5の発現上昇を認め、Fbln5欠損マウスでは高脂肪食負荷による皮膚における各種脂質関連分子の発現誘導が顕著に抑制されていたことから、皮膚における脂質代謝を介した全身性の熱代謝調節機構の変化がFbln5欠損マウスの体重減少・肥満抑制に寄与している可能性も考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでにFibulin-5(Fbln5)欠損マウスが全身におけるインスリン感受性の亢進、肥満抑制を呈することを見出してきた。Fbln5欠損マウスにおけるインスリン感受性改善の責任臓器として、弾性線維に富む臓器として皮膚および血管に着目して検討した。Fbln5欠損マウスでは皮脂腺の萎縮を認め、また皮膚における脂質代謝に関連する各種分子の発現変化から、皮膚を介した熱代謝調節機構の変化が肥満抑制に寄与している可能性が考えられた。さらに標識インスリンを用いた検討などにより、Fbln5欠損マウスでは肝の血管におけるインスリン透過性の亢進を示唆する結果を得ており、全身性のインスリン感受性改善寄与する可能性を考えている。通常食負荷あるいは高脂肪食負荷を行ったFbln5欠損マウスおよび野生型マウスの肝のマイクロアレイ解析により、Fbln5欠損マウスにおける脂肪肝の抑制や肝でのインスリン感受性改善機構として、脂質代謝の変化やミトコンドリア機能の変化、炎症シグナルの変化などの関与が示唆され、臓器連関を介した作用に矛盾しない結果が得られた。肝細胞特異的なFbln5欠損マウスを樹立し表現型を解析したところ、体重やインスリン感受性はコントロールマウスと同等であり、高脂肪食負荷によっても差は生じなかった。肝細胞特異的Fbln5欠損マウスの肝組織におけるFbln5の遺伝子発現はコントロールマウスと同等であり、肝臓におけるFbln5の発現は肝細胞外における発現が優位であると考えられ、Fbln5欠損マウスの肝臓におけるインスリン感受性の改善や脂肪肝の抑制に関しては、臓器連関を介した作用や肝細胞外のFbln5欠損による間接作用であることが示唆された。今後膵β細胞徳的Fbln5欠損マウス、脂肪細胞特異的Fbln5欠損マウス等の解析も含め、各臓器におけるFbln5の代謝制御機構についてさらなる検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
Fbln5欠損による全身のインスリン感受性改善、肥満抑制機構に関して、これまでに肝臓におけるFbln5過剰発現実験および肝細胞特異的Fbln5欠損マウスの樹立による解析を行った結果、臓器連関や肝細胞外からの間接作用を介したFbln5による肝臓のインスリン感受性改善機構や脂肪肝抑制機構の存在が示唆された。現在我々は通常食および高脂肪食負荷Fbln5欠損マウスおよび野生型マウスの肝臓のマイクロアレイ解析を施行しており、今後詳細な検討を追加することにより、Fbln5欠損マウスの肝臓における代謝制御機構を明らかにしていく。さらに現在脂肪細胞特異的Fbln5欠損マウスの樹立も進めており、脂肪組織を介したFbln5の代謝制御機構についても明らかにしていく。また皮膚表現型を介したFbln5による代謝制御機構について、エネルギー代謝機構の変化を明らかにするとともに、糖尿病や肥満のモデルマウスおよびヒト検体におけるFbln5の発現解析を追加し、代謝制御と皮膚Fbln5の関連について検討を進める。 さらに血管弾性繊維や血管周囲弾性線維を介したFbln5によるインスリンの移行性制御機構について、今後さらに詳細な解析を追加する。
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