妊娠期ではインスリン抵抗性状態となり、その代償のため膵β細胞はインスリン分泌を著しく亢進させるが、インスリン分泌亢進の分子機構は未だ不明な点が多い。本研究は妊娠期におけるP2X7受容体シグナルによるインスリン分泌亢進機構を解明することを目的とした。P2X7受容体ノックアウトマウス (P2X7 KOマウス) より調製した膵島からのインスリン分泌を解析した結果、非妊娠P2X7 KOマウス膵島では影響がみられなかったが、妊娠 (14-16日) P2X7 KOマウス膵島では野生型 (WT) 妊娠マウス膵島に比べてグルコース応答性インスリン分泌が有意に抑制されていた。一方、妊娠により増加する膵島内β細胞量およびATP分泌量、またP2X7受容体やインスリン分泌関連蛋白質の発現量は妊娠WTマウスと妊娠P2K7 KOマウスで違いが見られなかったことから、妊娠期P2X7受容体シグナルは個々のβ細胞からのインスリン分泌能亢進により代償性インスリン分泌を亢進させることがわかった。P2X7受容体は妊娠時に活性化されるHtr3受容体同様、非選択性のカチオンチャネルであり、P2X7受容体シグナルがHtr3aシグナルと同様の機構で調節しているのか、また異なる調節機構があるのかが妊娠期代償性インスリン分泌亢進機構を解明する上で重要であることが示唆された。
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