肥満などのインスリン抵抗性の存在下では、血糖値を正常に保つためにインスリン需要が大きくなる。膵β細胞はこれに対して、代償性に質的、量的に活動を高めて対応するが、長期に及ぶと疲弊し、機能的、或いは量的な破綻を起こすことにより2型糖尿病が発症すると推測されている。しかしながら糖尿病の前段階である境界型でのβ細胞量の変化に関して、日本人剖検例での検討は充分にはなされていない。本研究では、久山町研究における剖検サンプルを用いて、75g経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test:OGTT)によって正確に評価された耐糖能や糖代謝指標と膵β細胞量及びその他の膵組織学的変化の関係を検討した。久山町研究において2003年以降に剖検された患者で、75gOGTTを施行し、死後36時間以内に剖検が開始され、病理所見で膵癌や膵炎などの疾患がある者を除外し、膵組織学的特徴の解析が可能であった103名(正常耐糖能40名、耐糖能異常31名、糖尿病32名)に関して膵切片を作成し、評価を行った。BCA平均値は正常耐糖能群(NGT)1.85±0.72%、境界型群(PDM)1.59±0.65%、糖尿病群(T2DM)1.17±0.36%と、耐糖能レベルの悪化に伴い有意に低下した(傾向性P<0.001)。ACA平均値では、正常耐糖能群0.37±0.35%、境界型群0.30±0.24%、糖尿病群0.36±0.32%とこのような関係は認めなかった(傾向性P=0.80)。ラ島の密度・大きさ、β細胞新生のマーカーであるインスリン陽性膵管細胞の頻度に関しては耐糖能による有意な変化を認めなかった。結論として、β細胞量は正常耐糖能、境界型、糖尿病となるに従って段階的に減していた。
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