研究課題
本研究の目的は、性成熟疾患(思春期遅発症・思春期早発症)におけるエピジェネティック異常の関与の検証である。2018年度は、主に思春期早発症とエピジェネティック異常の関連について検討した。近年、インプリンティング遺伝子であるMKRN3の機能喪失型変異が、思春期早発症を招くことが報告された。一方、アジア諸国思春期早発症患者での変異報告は少数である。また、MKRN3遺伝子のメチル化・コピー数の異常はこれまで同定されていない。そこで、アジア諸国思春期早発症患者におけるMKRN3遺伝子の変異・異常の関与の程度を明確にすることを目的に以下の検証を行った。①アジア諸国思春期早発症患者24例を対象に次世代シークエンサー (NGS)を用いてMKRN3遺伝子の変異スクリーニングを行った。②20例を対象にパイロシークエンサーを用いてMKRN3遺伝子のメチル化解析を行った。③21例を対象にreal-time PCRを用いてMKRN3遺伝子のコピー数解析を行った。解析の結果、24例中1例 (4%)に疾患に関与するMKRN3遺伝子のフレームシフト変異 (p.Glu229Argfs*3)を同定した。家族解析を行い、患者の父、父方祖母に患者と同一の変異を認めた。疾患に関与するMKRN3遺伝子のメチル化・コピー数の異常は同定されなかった。以上の結果より、アジア諸国思春期早発症患者におけるMKRN3遺伝子変異は稀であることが判明した。またMKRN3遺伝子変異の頻度にはアジア諸国と西洋諸国で差があることを明らかにした。思春期早発症患者の家系例解析において同定されている全てのMKRN3遺伝子変異は父由来であり、de novo変異はこれまで報告されていない。したがって、MKRN3異常の主体は、de novo変異の発生ではなく、父由来変異の伝達であることが見出された。
2: おおむね順調に進展している
上記研究成果に関して、研究会で発表を行い、論文化することができた(Suzuki E. et al., Hum Genome Var, 2019)。
2019年度は、思春期遅発症患者を対象に、ビーズアレイ法によるゲノムワイドメチル化異常解析を行い、疾患発症に関与するエピジェネティック異常を探索する。得られた患者集団のメチル化データをコントロールデータと比較し、疾患に特徴的なエピジェネティック異常領域を探索する。特徴的なエピジェネティック異常が同定された症例に関して、同異常と臨床症状との関連性を評価する。さらに、性成熟疾患患者を有する家系例において、家族検体が得られる場合、家族解析を行い、病因の解明につなげる。
思春期早発症とエピジェネティック異常の関連について検討する際に使用した試薬等が比較的低予算で納めることができたので。思春期遅発症とエピジェネティック異常の関連について検討するためのメチル化試薬等に使用予定である。
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Human Genome Variation
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10.1038/s41439-019-0039-9.