研究課題/領域番号 |
18K16250
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒 桃子 北海道大学, 大学病院, 医員 (30741219)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝芽腫 / シスプラチン耐性 / DNAメチル化異常 / 遺伝子発現異常 |
研究実績の概要 |
【研究の目的】 肝芽腫は胎児肝の発生過程におけるエピゲノム異常、特にDNAメチル化異常が発癌、進展および悪性化における主要な調節機構になっている。これは予後不良なシスプラチン(CDDP)耐生への関与にも想定され、本研究は肝芽腫におけるCDDP耐性に関与するエピゲノム異常、遺伝子発現異常を解析し、分子マーカーの確立、耐性の解除・新たな治療ターゲットを模索することである。 【研究の成果】 CDDP感受性群6例、CDDP抵抗性群5例のDNAを対象に網羅的DNAメチル化ビーズアレイ解析を行った(2018年度に施行)。更には肝芽腫細胞株であるHuH6を用いて、CDDPへの断続的、段階的な3か月間の暴露により抵抗性株(HuH6CR)を作成した。HuH6CRとHuH6WTよりRNAを抽出し、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、発現低下しているCDDP抵抗性候補遺伝子の選定を行った。メチル化ビーズアレイとマイクロアレイの結果より、CDDP抵抗性肝芽腫において高メチル化、低発現している遺伝子を選定し、さらに統計学的解析手法を用いて、CSF3RをCDDP抵抗性に最も関連遺伝子として選定した。肝芽腫43例を対象とし、バイサルファイトパイロシークエンシング法によりCSF3Rのメチル化率を測定した。メチル化ビーズアレイを施行した症例において、メチル化ビーズアレイの結果とパイロシークエンシングの結果が統計学的に相関することを確認した(2019年度に施行)。術前CDDP感受性患者38例の検査結果より、高メチル化群と低メチル化群に群別化し、再発曲線を比較した。データのクリーニングおよび統計解析をより詳細に詰めて、最終的に最もCDDP抵抗性と関連が強かったCSF3RをCDDP抵抗性遺伝子として選定し、その成果を論文にて報告した(2020 Hepatol. Res.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メチル化ビーズアレイの結果により、CDDP感受性患者において28,556プローブ(6,775遺伝子)が高メチル化しており、CDDP抵抗性患者において15,102プローブ(4,637遺伝子)が高メチル化していた。これらのCDDP抵抗性患者および感受性患者における高メチル化プローブの中で、おのおの17%と16%がTranscriptional start siteであり、21%と5%がCpGアイランドであった。教師なし階層的クラスター解析およびPrinciple Component Analysisでは、そのメチル化傾向により、患者群をGroup1とGroup2に群別化した。CDDP感受性患者のメチル化傾向は類似していたが、そこから逸脱するに従いCDDP抵抗性を獲得し、悪性度が上昇する傾向がみられた。また、Group1はGroup2に比較し、全生存率と無再発生存率はともに有意に悪かった。薬剤耐性細胞株として作成したHuH6WTとHuH6CRマイクロアレイ発現解析より、HuH6CRで有意に発現低下したのは119遺伝子であった。これらのデータを用いて、CDDP抵抗性関連候補遺伝子として5遺伝子を選定し、その中から統計学的に最もCDDP抵抗性と関連が強かったCSF3RをCDDP抵抗性遺伝子として選定した。以上の成果につき論文報告をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において新たに抽出された化学療法抵抗性関連候補遺伝子に対して、肝芽腫細胞株(HepG2,HuH6)を用いた遺伝子操作株(強制発現、ノックダウン)を作成し機能評価をおこなう。また近年着目されているエピゲノム調節薬(BRD4阻害剤(JQ1);DNMTs阻害剤(5-aza-dC)など)による細胞株への作用を解析することで本研究で目的としている肝芽腫に対する新たな治療ターゲットの模索に繋がると考え、並行しておこなっていく予定である。 また近年報告済み分子プロファイルを利用したin silico解析が自由におこなえる環境が進んでおり、本研究においてもこれまでに得られた知見をQlucore omics explorerを用いて各種データと照合することで新たな薬剤耐性解除につながる分子機構を見つけ出すことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により学会中止のため成果発表をおこなうことができなかったため、本研究によって得られた解析結果の集約と報告を次年度におこなうこととした。更には細胞機能解析およびin silico解析をおこなうことによって更なる知見を得ることを目標とし、研究期間の延長をおこなった。
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