本研究の目的は、乳がん細胞が取り込む脂肪酸(C20:3)の分子構造を明らかにし、同脂肪酸がPD1/PD-L1関連免疫チェックポイントの活性化を来すメカニズムを明らかにする事である。これまでに、C20:3を含む多価不飽和脂肪酸の細胞内取り込みと輸送に関わる脂肪酸結合タンパク(Fatty acid binding protein: FABP7)をその候補遺伝子として同定した。本年度では、FABP7の乳がん細胞における機能解析をさらに進めるために、複数の乳がん細胞株を用いてFABP7のknockdownを試みた。しかしながら、FABP7の発現量が乳がん細胞で低いこともあり、効果的なknockdownが行えたのは1細胞株のみとなった。このため、CRISPR-CAS9による遺伝子knockoutを試みたが、これも技術的な問題で最適なknockout細胞の樹立に至らなかった。FABP7の過剰発現も試みたが、安定発現系ではFABP7のmRNAからタンパクへの翻訳が進まないという予想外の現象に遭遇し、様々な改良を試みるも樹立に至らなかった。最終的にDoxycycline-inducibleシステムでの過剰発現株の樹立には成功したため、同細胞を用いてFABP7の発現変動に伴う乳がん細胞の表現型の変化を探索した。FABP7の過剰発現、Knockdownいずれにおいても、p38-MAPK経路がActivationされることは確認できたが、PD-L1の発現の変動はknockdown側の細胞のみで観察された。細胞の処理時間や脂肪酸負荷の有無などで結果が異なることも示唆され、FABP7の遺伝子操作に加えて、どのような条件を加えることで免疫チェックポイントの活性が最も大きく変動するかはさらなる検討が必要であると考えられた。
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