クローディン(CLDNs)はタイト結合の主要構成分子であり、20種類以上からなるファミリーを構成して組織、細胞ごとに特有の分布を示す。近年CLDNsががんの浸潤や増殖を制御することがわかってきており、特定のCLDNs発現は腫瘍の悪性形質を決定する上で重要な役割を担っている可能性がある。我々はこれまでにCLDN6から核内受容体に至る新規のシグナル経路を解明し、それが正常幹細胞の上皮分化トリガーとして機能することを突き止めた。また子宮内膜癌では過剰なCLDN6シグナルがエストロゲン受容体のセリンリン酸化を介して悪性形質を増強することがわかった。乳癌でしばしば高発現するCLDN4はCLDN6と近縁で、シグナル伝達に関わるC末端細胞内ドメインがよく保存されていることから、乳癌においては過剰なCLDN4接着シグナルによる悪性形質増強機構が存在すると仮説を立てて研究を開始した。CLDN4陽性乳癌細胞株T47DとMCF-7に対し、CRISPR法でCLDN4のノックアウト細胞株を樹立し、一方でCLDN4陰性のMDA-MB-231についてはCLDN4過剰発現を実施し、それぞれ野生型と悪性形質を比較解析した。またCLDN4の機能ドメインを同定するため、ノックアウト細胞に様々な変異体をレスキュー導入して検討した。CLDN4シグナルの標的を同定するため、RNAシークエンスで親株とノックアウト株のトランスクリプトームを比較した。CLDN4は増殖能、浸潤能、および遊走能を正に制御していることがわかった。さらにCLDN4による悪性形質増強にはCLDN4の対合と、C末端ドメインにある第197チロシンが必須であった。CLDN4シグナルは様々ながん関連遺伝子の発現を制御しており、特に脂質代謝関連遺伝子群が多く抽出されたことから、本シグナルは肝X受容体(LXR)に帰結する可能性が考えられた。
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