DYRK2はリン酸化酵素であり、DYRK2の発現が低い乳癌では細胞増殖能、浸潤能が高く、悪性度も高くなっている。そこで、本研究ではDYRK2の発現の低い乳癌で、治療効果の高い薬剤があるかを調べるため、マイクロアレイを用いて、DYRK2によって制御を受ける下流の遺伝子を網羅的に探索し、乳癌細胞株を用いた生化学的解析により、その発現制御機構を明らかにすることを目標とした。 これまでの研究から、マイクロアレイを用いて、DYRK2によって制御を受ける遺伝子を網羅的に探索した結果、代表的なヒト乳癌細胞株であるMCF-7では、DYRK2の発現を抑制すると、Cyclin-dependent kinase 14 (CDK14)の転写が増加することが判明している。 初年度はDYRK2によるCDK14の発現制御機構に焦点をあてた解析を行った。CDK14は直接DYRK2に転写制御されていると考えられ、レポーターアッセイ・転写因子の結合部位解析を用いて、Androgen receptor (AR)を転写因子として同定した。 次年度からは、DYRK2の発現量と抗癌剤等の各種薬剤の治療効果の相関に焦点をあてた解析を行った。DYRK2の発現が低い乳癌細胞株(MDA-MB-231細胞など)、高い乳癌細胞株(MCF-7細胞など)、DYRK2を発現抑制または過剰発現させた乳癌細胞株に抗癌剤・CDK14阻害薬・初年度に同定した転写因子ARの阻害薬などを添加し、MTSアッセイを用いて、腫瘍細胞増殖能や各種薬剤耐性の変化を測定し、DYRK2の発現が低い乳癌に対して治療効果が期待出来る化合物を探索した。 DYRK2を恒常的に発現抑制した乳癌細胞株では、AR活性が上昇し、AR阻害剤を添加するとコントロールと比較し感受性が増加していた。これらの結果より、DYRK2の発現が低い乳癌ではAR阻害剤が特異的に作用することが示唆された。
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