研究課題/領域番号 |
18K16269
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中山 淳 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (30801237)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ERBB2 / 乳癌 / 遺伝子増幅 / 転移 / 多臓器転移 / ホメオボックス遺伝子 / 転写因子 / アンプリコン |
研究実績の概要 |
ERBB2(HER2)の遺伝子増幅は癌の診断・治療標的として重要視されてきたが、ERBB2遺伝子座近傍に位置する50にもおよぶ遺伝子群が、ERBB2と共に遺伝子増幅されることの意義はほとんど明らかになっていない。私はERBB2遺伝子増幅領域(アンプリコン)の末端部に位置するHNF1Bが、HER2陽性乳癌において脳・肺・骨などの多臓器への転移を誘導する遺伝子であることを示唆する結果を得た。本研究の目的は、このHNF1Bが多臓器転移を誘導する分子メカニズムを明らかにすることで、HER2陽性乳癌における癌転移制御機構の解明を目指す。 本年度の実績として、活性型ERBB2を発現させた正常乳腺上皮細胞株NMuMGを用いた転移評価系を行い、HNF1Bの転移能を明らかにしてきた。マウス乳腺脂肪組織中に移植する同所性移植手法(原発巣形成、全身転移の評価)、尾静脈注射手法(肺転移の評価)、尾動脈注射手法(骨転移の評価)を行った。活性型ERBB2のみを発現させた細胞は肺転移しか起こさなかったことに対し、HNF1B発現細胞は原発部位における造腫瘍能の増大および肺・骨・脳への転移を引き起こすことが明らかになった。さらに、ERBB2-NMuMG細胞を脳内に直接移植する頭蓋内移植手法による脳転移アッセイ系を確立し、HNF1Bの脳転移能を評価した。結果として、HNF1B発現細胞は脳微小環境において顕著な増殖を示した。 以上の結果から、ERBB2アンプリコン辺縁部に位置するHNF1Bは多臓器転移を誘導する責任遺伝子であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同定した遺伝子HNF1Bが多臓器転移を引き起こすことを示した。また、移植したマウスから各転移先臓器を回収し、転移組織から分離した転移細胞の単離培養が進行している。原発腫瘍や肺・骨転移については、腫瘍細胞の単離と樹立がすでに終了しており、脳転移など一部の転移細胞の増殖が顕著に遅いことが原因で樹立に遅れが生じているが、概ね予定通りと言える。各転移細胞からRNA回収した後に、RNA-seqによる発現解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
各転移先臓器(脳・肺・骨)から単離し、継代培養を行うことで樹立したHNF1B発現NMuMG細胞について、次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析を行う。同時に樹立したERBB2-NMuMG細胞の原発腫瘍・肺転移由来細胞についても解析を行い、比較対象として用いる。各臓器の転移細胞において特徴的に発現している遺伝子群を抽出し、GO解析によるエンリッチメント解析を行い、各転移先臓器に特徴的なシグナル伝達経路や相互作用を明らかにする。この各転移細胞の解析から、HNF1Bの下流で多臓器転移を引き起こす責任遺伝子の候補を絞り込む予定である。候補遺伝子についてCRISPR/Cas9を用いたKO細胞株を樹立し、転移能を評価する。候補遺伝子の抗体がある場合、組織免疫染色法により転移組織内におけるどのような局所組織に発現しているのか明らかにする。 また、大規模臨床検体データベースなどを用いて、各臓器に特徴的な遺伝子群について、発現解析および生存解析を行うことで、転移予測マーカーとしての有用性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
樹立した各転移臓器の転移細胞についてRNA-seqの受託解析を予定していたが、脳転移細胞のみ増殖が顕著に遅かったことから受託を次年度に移行した。 脳転移のみ顕著に遅くなるということは予測できなかった事態であるが、現在は順調に転移細胞の樹立が進んでいるため、予定通りRNA-seq解析を行う予定である。
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