昨年度までの成果として、RNA micro array解析により、Ncxの標的分子候補としてendothelin converting enzyme-like 1 (Ecel1)を同定した。Ecel1は腸管神経に発現し、Ncx-/-マウス腸管で発現が上昇していた。Ecel1のpromoter領域を検索し、Ncxの結合配列を見出した。Ncx結合配列の変異により、Ecel1のプロモーター活性が上昇した。この結果は、Ncxが神経細胞におけるEcel1の発現を負に調節することを示唆している。Ecel1はシナプス形成と神経保護に関与していることが報告されている。 そこで本年度は腸管神経初代培養を行い、シナプス形成、増殖能、細胞死を評価した。Ncx-/-腸管神経細胞初代培養では、WTよりも多くの神経節様構造がみられた。さらに各神経節様構造はWTよりもNcx-/-でより多くの神経細胞を含んでいた。Sholl解析による神経分岐の複雑さは、WTとNcx-/-の間に違いは見られなかった。SynapsinⅠの染色で評価した神経細胞1つあたりのシナプスの形成数は、WTよりもNcx-/-で有意に低かった。このことから、Ecel1の過剰発現が異常なシナプス形成をもたらし、Ncx-/-マウスに腸管機能不全を起こしている可能性が考えられた。また、培養神経のEdU (5-Ethynyl-2'-deoxyuridine)による増殖能評価とcleaved-caspase3を用いた細胞死評価を行なった。EdU陽性の増殖神経細胞の割合はNcx-/-とWTの間に有意差は観察されなかったが、cleaved-caspase3陽性神経細胞の割合はWTよりもNcx-/-で低下しており、Ncx-/-腸管神経細胞ではアポトーシスが抑制されていることがわかった。 このことから、NcxノックアウトによりEcel1が過剰発現することで、正常な腸管神経細胞死が妨げられ、腸管神経過形成を引き起こす可能性が考えられた。 以上より、Ncxは発達中の腸管神経において、Ecel1発現を抑制し、シナプス形成と腸管神経細胞死を調節している可能性が示唆された。
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