現在、脳死ドナーからの肝グラフト保存は、化学保存液(UW液)による冷却保存が実用されているが、この方法では、虚血および再灌流障害から生じる肝細胞障害のため、摘出から移植までの保存時間は最大12 時間とされている。常温酸素化灌流によるグラフト肝保存効果は、マージナルグラフトとされる心停止肝移植において、グラフトの質の向上や、臓器保存時間の延長が期待されている。一方で常温酸素化灌流においてはこれまでの例保存と違い、灌流液や灌流温、灌流圧など多くの調整が必要なパラメーターがあり、現時点ではその最適解は示されていない。今回の研究では、灌流液中の酸素運搬体としてドナーブタ血液の配合濃度変化によるグラフト保存効果の変化について実験を行った。 実験計画に従いブタ肝灌流実験を行った。いずれの実験も細胞外液型電解質組成、糖濃度、アミノ酸濃度を調整した灌流液に抗凝固薬としてヘパリンを混注した灌流液に、酸素運搬体としてブタ血液を0%、10%、30%、50%配合した灌流液を用いて、12 時間の常温酸素化灌流保存実験を行った。酸素化については、灌流液を酸素分圧100-400mmHgにして門脈、肝動脈から灌流した。いずれの実験も12 時間の常温酸素化保存観察においてトラブルなく終了した。 以前に行った実験結果を加えて解析したところ、酸素運搬体としてブタ血液配合濃度増加に伴って、灌流中のブタ肝の重量増加が明らかに抑えられる結果となった。ブタ血液配合濃度が0%のときはグラフトを想定したブタ肝は12 時間の常温酸素化灌流後に1.34±0.06 倍へ重量増加がみられたが、血液配合濃度を50%まで増加させると1.03±0.04 倍まで抑制することができた。また、病理学的にも、ブタ血液配合濃度増加に伴って類洞の拡張が抑えられており浮腫改善を示唆する所見であった。 現在はこの所見をもとに、学会発表を行い、論文を投稿中である。
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