研究課題
これまで、切除不能転移性大腸癌における原発巣切除が生命予後に与える影響については否定的とされてきたが、近年大規模コホートを用いた報告において、傾向スコアを利用し、原発巣切除が生命予後を改善させる報告がなされている。一方、切除不能転移性大腸癌において、末梢血中リンパ球/単球比(LMR)は生命予後と関連するとされる。血中の単球増加は、腫瘍局所での腫瘍関連マクロファージ(TAM)の増加を意味するとも報告される。この場合TAMは、腫瘍の増生、浸潤、転移を促進し、腫瘍の血管新生を促し、T細胞による抗腫瘍作用を抑制するとされる。今回、切除不能転移性大腸癌の原発巣切除により生命予後が延長する可能性、原発巣切除によりLMRの術後増加する症例は減少する症例よりは生命予後が良い可能性を考えた。そこで、切除不能転移性大腸癌の原発切除後に、LMR(末梢血中リンパ球単球比)が術後増加する症例と減少する症例を比較し転移性大腸癌における原発巣切除による免疫状態変化と予後与える影響を検討する事を目的とした。結果、切除不能転移性大腸癌において、64例の原発切除症例を59例の非切除症例を比較し、原発切除症例で予後が良い事が示された。また、両群では背景因子に差を認めるものの、Cox回帰による予後因子解析でも原発非切除は独立因子となっていた。さらに、原発切除症例でLMRの変化に注目して評価を追加すると、LMRの術後増加症例は減少症例では背景因子に差を認めず、増加症例は減少症例に比較して有意に予後が良い事が見いだされた(生存期間中央値27.3対20.8ヶ月)。LMR増加例と減少例で、切除検体を比較すると、増加例では有意にCD8+リンパ球/CD163+単球比が低い事が見いだされ、別コホートでの追試でも同様の組織検体での特徴が見られた。この結果をSurgery Today誌へ投稿しpublishとなった。
3: やや遅れている
本研究は下記の①-③を具体的な研究課題としている。すなわち、①切除不能転移性大腸癌の原発切除後にLMRの術後増加する症例と減少する症例で、摘出検体中の免疫状態の差異を評価し予後との相関を検討する。また、②大腸癌肝転移における原発肝転移同時切除症例の切除検体を用いて、原発巣と転移巣の免疫状態の差異を評価する。更に、③マウスを用いて高転移大腸癌細胞株の盲腸移植により大腸癌肝転移モデルを作成し、盲腸病変摘出有無での生存期間差異と、原発転移巣それぞれの免疫状態を評価する。同モデルでマクロファージをdeletionし、マクロファージが与える影響を検討する。OVAを遺伝子導入した癌細胞株と、OTマウスを用い、同モデルで盲腸病変、肝病変に浸潤するT細胞のプロファイル、増殖能、細胞障害能を比較する。この中で、最も要となる研究課題①について、成果を論文化出来た事は評価に値する。②についても、研究を進めており、目標期間内にある程度の成果を得る事が出来る見込みである。一方で、③の動物実験については、これから着手となるが、研究期間を考慮するとやや遅れていると評価せざるを得ない。
前述の通り、これまでに切除不能転移性大腸癌において原発巣切除により予後が改善する症例群が存在する事を示し、その症例群では原発巣でのCD8リンパ球/CD163陽性単球比が低い可能性を見い出した。また、同症例群では、術前後でLMR比が増加する事を示した。今後、これに関連する液性因子の評価を術前採取血清で行い、そのメカニズムを考察する一助とする予定である。また、現在進めている大腸癌肝転移同時切除症例における原発巣、転移巣の組織における免疫学的特徴と術前における液性因子の特徴を検討し、原発巣と転移巣の免疫状態の差異を評価し、メカニズム解明の一助とする。以上の検討は、症例数の限りや後ろ向き研究であるリミテーションがあり、前向き観察研究による評価も今後検討していく予定である。同時に、マウスを用いた検討も着手していく。すなわち、マウスを用いて高転移大腸癌細胞株の盲腸移植により大腸癌肝転移モデルを作成し、盲腸病変摘出有無での生存期間差異と、原発転移巣それぞれの免疫状態を評価する。同モデルでマクロファージをdeletionし、マクロファージが与える影響を検討する。OVAを遺伝子導入した癌細胞株と、OTマウスを用い、同モデルで盲腸病変、肝病変に浸潤するT細胞のプロファイル、増殖能、細胞障害能を比較する。
本年、動物実験を開始予定であったが、開始出来ず来期にずれ込んでしまった為、同実験で使用予定の試薬購入費が残ってしまった。次年度の動物実験用に繰り越して使用する予定である。
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Surg Today.
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10.1007/s00595-019-01927-1