研究課題/領域番号 |
18K16303
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高見 秀樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (40723028)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / circular RNA / 背景肝 |
研究実績の概要 |
本研究では、HCC癌部および背景肝におけるcircular RNA発現についてRNAシーケンシングを行い、HCCの発生や進展に関わるcircular RNAを網羅的に解析することを第一の段階としている。その上で、腫瘍因子および背景肝因子としてHCCの予後や臨床病理学的因子と関係するcircRNAの特定を目指す。さらに、それらのcircRNAにより制御されるmiRNAの同定や、影響を受ける転写因子、蛋白質をコードするRNAについても検討し、細胞株を用いた機能解析を行うことを予定している。 本年度については肝細胞癌手術症例の癌部及び非癌部組織検体を用い、non-coding RNAを含むtotal RNAを抽出した。これらから臨床的特徴にしたがって検体を選別し、網羅的circular RNAシーケンシングを行った。このRNAシーケンシングでまずは腫瘍組織特異的なcircular RNAの検出を目的としてペアエンドのRNAシーケンスデータに対してcircular RNAの検出、正常と腫瘍組織の発現比較、およびアノテーションを行った。シーケンスのクオリティコントロールを行ったところ、通過したリードの割合は99.99%以上でシーケンシング結果のクオリティが高いことを確認した。さらに発現変動解析を行い、腫瘍・非腫瘍部の発現比較において、補正p値 < 0.1のcircular RNAは2個、補正前p値 < 0.05 のcircular RNAは1210個だった。補正前p値 < 0.05 かつ|log2FC| > 4 のcircular RNAは251個だった。 この網羅的なcircular RNA解析の結果をもとに、HCCの発生・進展に重要と考えられるcircular RNAを抽出し、さらに多数の臨床検体での発現解析を行う準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度では肝細胞癌(HCC)の発生・進展に関わるcircular RNAの抽出を目的とした網羅的解析を行うことを第一のステップとして予定していた。当教室で施行されたHCCに対する肝切除によって得られた凍結組織からRNAの抽出、クオリティチェックを行うとともに、本研究の目的であるHCCの病勢や予後と関わる分子を抽出するために必要な臨床情報の組み合わせを最適化することから行った。そのため、当教室が保有する臨床情報の確認を行い、網羅的解析に用いる検体候補となる症例を絞り込んだ。さらに、その候補の中で、RNAシーケンスに必要なRNAクオリティを保ったものを選び出すことに時間を要した。この過程で選択された検体について、circular RNAに特化した網羅的RNAシーケンスを行った。得られたシーケンス結果から、circular RNAのパイプラインを適用した発現解析を行い、腫瘍部・非腫瘍部の間で発現が異なる特徴的なcircularRNAの抽出に取り組んだ。この課程で、網羅的RNAシーケンスの実施および、そこから得られた結果の解析に当初想定していたより時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今後多数例の手術によって得られたHCC癌部・非癌部を用い、網羅的解析によって選別された候補として有望と思われるcircular RNAの発現解析を行う。そのための癌部・非癌部から抽出されたRNAはライブラリー化されており、準備が整っている。circular RNA用に設計されたプライマーを用い、定量PCR法の技術を用いて当該分子の発現解析を行う予定である。また、circular RNAの非侵襲的バイオマーカーとしての有用性を検討するために研究用採血検体も採取されており、ライブラリー化されている。非侵襲的なバイオマーカーとしての応用可能性を検討するため、収集された血液検体について定量PCR法の技術を用いた発現解析を行う予定である。今後これらの検体を用いた解析を進めるとともに特に有望なcircular RNAについてはHCC細胞株を用いた機能解析を行い、強制発現系や発現消失系の増殖能・浸潤能などを調査することで当該分子が細胞株にどのような影響を与え得るのかを検証する。これら実験・解析によって得られた成果は国内外の学会における発表や、論文として社会に発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の経費は主にcircular RNAの網羅的解析に伴う実験についての経費であった。網羅的解析のための検体抽出に関する器具・試薬などの消耗品やRNAシーケンス解析に必要な見積もり額と、これら実験・解析の実施にあたって実際必要となった額とが若干異なったために次年度使用額が生じた。この費用については次年度に必要な定量PCR法のためのプライマー作成・解析に必要な試薬の購入に充てる予定としている。
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