研究課題
本研究課題は、大腸癌では遺伝子発現パターンによるConsensus Molecular Subtypes (CMS1-4) のうち、特に予後不良なCMS4-EMT型大腸癌の治療抵抗性を明らかにし、その克服方法を探ることである。実際には、我々が独自開発したEMT可視化CMS4大腸癌細胞株モデルを用い、イメージング技術により化学療法中のEMT-MET過程をリアルタイムでの時空間的把握を行い、癌および癌微小環境をも模倣する患者由来腫瘍組織片PDXマウスからCMS4-EMT型PDXモデルに化学療法を行うことで、CMS4大腸癌の予後不良機序を網羅的な遺伝子発現解析で明らかにするとともに、CMS4大腸癌の薬剤耐性に関わる新規バイオマーカーの探索を行うことである。岡山大学倫理委員会で承認を得て、患者由来組織サンプルを使用できるよう整備した。昨年度の引き続き、CMS4-EMT型大腸癌組織由来のPDXモデルを作成した。病理学的所見、免疫組織学染色から、CMS4-EMT型PDXモデルは2例であることを確認し、化学療法を行え臨床経過を模倣できる事を確認した。昨年度に引き続き、EMT誘導物質でEMTが誘導される誘導型EMTと、恒常的に間葉系を維持している恒常型EMTのうち、誘導型EMT可視化大腸癌細胞株を用いて化学療法中のEMT-MET現象をリアルタイムイメージングを用い解析を行った。以上より、CMS4-EMT PDXマウスモデル、CMS4可視化モデル細胞株を作成し、化学療法中にどの段階でどのフェーズにいる細胞が最も治療抵抗性であるかの基盤の作成が可能であった。特に我々独自のCMS4可視化モデル細胞を用いて初めて具現化できた、EMT-METと一過性の化学療法抵抗性出現細胞の存在をリアルタイムに確認出来る事はオリジナリティが高く、今後予後不良なメカニズムの解明を行うこととしている。
2: おおむね順調に進展している
モデル細胞である、EMT可視化大腸癌細胞のうち、EMT誘導物質でEMTが誘導され蛍光タンパク質を発現する大腸癌細胞株HCT116とRKO細胞は誘導型EMTタイプ、恒常的に蛍光タンパク質を発現するSW480細胞は恒常型EMTタイプとし、各EMTマーカーを調べる事で機能的に一致することを確認した。誘導型EMTタイプに化学療法を行うとpartial EMT状態が最も抵抗性であり、化学療法を除去すると速やかにMETを起こすことも確認した。リアルタイムイメージングを用いることで、EMT-METの可塑性や時間経過は非常に短時間で行われることが判明した。上記の時間経過に照らし合わせ、CMS4-EMT型PDXモデルに化学療法を行い、本来臨床経過中では調べることが出来ない時間軸でPDXを調べることが可能になった。Vitroの結果同様、vivoのPDXモデルにおいてもEMT-METは移行は短時間であり、化学療法が終了すると速やかに元のE typeに戻ることを免疫組織学的染色で確認した。以上より、当初の計画通り、CMS4-EMT PDXマウスモデル、CMS4可視化モデル細胞株を作成し、化学療法を行い臨床経過を模倣することで、既知の化学療法抵抗性にEMTが関与に対し、新たに時間軸を付け加えること、すなわち適切な時期に解析を行わないと真のEMTの化学療法抵抗性に迫れないことを明らかにした。
初年度の計画通りに、蛍光イメージングによりリアルタイムモニタリング出来るCMS4モデル細胞とCMS4-PDXを確立出来、二年度の計画通り、確定させた上で薬剤耐性の経過についての基盤作成が可能であった。三年度目(最終年度)は治療解明とバイオマーカー探索について以下で行う予定としている。1. モデル細胞株とイメージング技術を用いて、EMTの誘導、維持を確認しながら、CMS4大腸癌細胞株に各種抗癌剤を投与後、薬剤耐性を獲得した腫瘍細胞からRNAを抽出する。網羅的な遺伝子発現解析を行い、薬剤耐性に関連する遺伝子発現を同定する。また、同様の実験系をin vivoでも行い、さらなる検証を行う。2. CMS-PDXモデルを用いての検証。まず、作成したCMS別-PDXから間質増生を伴ったCMS4-PDXが免疫学的組織染色の結果、CMS4-PDXであることを確認した。また実際の臨床経過のように化学療法を行い、vitroでのタイムスケジュールに合わせ、最も治療抵抗性の多い時点、化学療法から生き延び元の状態に戻った時点、各々mRNAを抽出したので、網羅的な遺伝子発現解析を行い、vitroの解析結果と合わせ、薬剤耐性に関連する遺伝子発現を同定する。モデル細胞で得られた薬剤耐性に関連する遺伝子発現の再現性の確認を行う。
PDXマウスが予想よりマウス代がかかることなく樹立できたため。また仮説通りの研究成果が出たため、必要最小限の研究費で遂行できたから。また、繰越金は次年度の追加実験、確認実験に使用する予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 図書 (2件)
Cancer letters
巻: 444 ページ: 127-135
10.1016