細胞内では酸化的DNA損傷を受けたヌクレオチドを塩基除去修復する機構を備えており、OGG1,MutYH,MTH1の3つの修復に関わる酵素が重要な役割を果たすことで遺伝子変異を抑制していることが分かっている。今回、ヒト食道癌の臨床検体(食道癌組織と食道正常組織のパラフィン包埋ブロック)から薄切プレパラートを作成し8-oxoG、OGG1とMutYHについて、発現量やその強度を評価して臨床病理学的因子と比較検討することでOGG1とMutYHの臨床的な表現型を探索した。また、今回は食道癌細胞株でも解析した。 結果①:MutYHの免疫染色ではMutYHは癌部で高発現していた。MutYHとTUNELの蛍光2重染色ではMutYH発現癌細胞でTUNEL陰性でありMutYHが癌のアポトーシスを抑制しているという仮説に矛盾しない結果であった。 結果②:食道癌粘膜正常部と癌部におけるMutYH発現の割合について、MutYHは癌部で高発現している症例が有意に多数を占めていた。(P<0.01)(以下、今回の追加) 結果③:in vitro(細胞株)における結果では(1)様々な食道癌細胞株と線維芽細胞株でOGG1 とMutYH の発現量に差がみられた。 (2)酸化ストレス下(メナジオン投与)の細胞生存率は、siOGG1で10%低下し(P<0.02)siMutYHで20%上昇(P<0.03)した。(食道癌細胞株TE1とTE5を使用) 結果④:臨床検体を用いたIHC強度の検討でMutYH強発現群では、腫瘍径が大きく。(多変量解析:HR3.94 P<0.01)予後不良(5生:80% vs 45% P<0.01)であった。 以上より、MutYHが癌のアポトーシスを抑制しているという仮説に矛盾しない結果であった。治療対象の探索という今研究の目的において分子標的の候補であると考えられた。
|