NLRP3インフラマソームは、危険シグナルにより細胞内に形成される分子複合体であり、Caspase-1の活性化を介して炎症性サイトカインIL-1βの産生を制御している。近年、このNLRP3インフラマソームが様々な疾患の病態に関与していることがわかってきているが、腸管虚血再灌流(I/R)障害におけるNLRP3インフラマソームの役割は不明である。本研究では、腸管I/R障害および、それに続発する急性肺障害におけるNLRP3インフラマソームの役割について検討した。NLRP3インフラマソーム構成分子であるNLRP3、ASC、Capase-1およびIL-1βの欠損マウスを用いて解析を行い、野生型マウスと比較して、これらの欠損マウスでは腸管I/R障害後の生存が有意に延長することを見出した。NLRP3欠損により、腸管炎症には有意な抑制を認めなかったが、腸管I/Rに続発して生じる炎症性細胞浸潤や肺胞壁の肥厚、うっ血や肺胞浮腫といった急性肺障害が有意に抑制された。また、野生型マウスで認められた著明な肺血管透過性の亢進もNLRP3欠損により有意に抑制された。骨髄移植実験では、非骨髄細胞においてNLRP3を欠損させた場合に腸管I/R後の生存率の改善が認められたことから、非骨髄由来細胞の寄与が示唆された。さらに、腸管I/R後の肺血管内皮細胞ではNLRP3の発現が亢進しており、肺血管内皮細胞が危険シグナルに反応してNLRP3インフラマソームを活性化してIL-1βを産生することも確認された。これらの結果から、NLRP3インフラマソームが腸管I/R障害に続発する急性肺障害に重要な役割を果たしていることが示され、その制御機構を明らかにすることは新たな治療法の開発や臓器連関機構の解明にも繋がると期待される。
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