研究課題
肝類洞閉塞症候群 (Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS) はオキサリプラチンに代表される抗がん剤治療や造血幹細胞移植後に惹起される肝障害である。重症の場合は多臓器不全を合併し致死的となる。また、化学療法後に大腸がん肝転移症例に対して肝切除術を施行すると術中出血量の増加や残肝機能の低下を誘導して患者の予後を不良にする。しかしながら、その原因は不明で、有効な治療法も確立されていない。肝類洞閉塞症候群症例では血小板や血液凝固異常の可能性が指摘されている。そこで本研究ではモノクロタリン投与によるマウス肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS)モデルを用いてトロンボキサンA2の受容体(TP)シグナルの役割について検討をおこなった。C57BL6マウス(野生型マウス)またはTPノックアウトマウスにモノクロタリンを投与した。投与48時間後に野生型マウスで肝障害(ALT増加、出血肝壊死)がみられた。TPノックアウトマウスでは肝障害が野生型マウスに比較して増悪した。臨床症例では血小板の肝類洞閉塞症候群への関与が示唆されていることから、末梢血液中の血小板数ならびに肝集積血小板を測定し、野生型マウスとTPノックアウトマウスで比較検討した。肝類洞閉塞症候群は肝類洞内皮障害をきたすことが知られており、肝類洞内皮障害について、内皮障害マーカーなどを遺伝子発現や免疫染色などによって解析し、野生型マウスとTPノックアウトマウスで比較検討した。
2: おおむね順調に進展している
本研究が、当初に立案した実験計画に沿って、ほぼ順調に遂行されている。すなわち、モノクロタリン(Monocrotaline, MCT)投与により肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS)に類似した肝障害を再現することができた。さらにSOSにおけるTPシグナルの関与を確認することができた。さらにSOS では肝血小板集積が臨床例で指摘されること、TPシグナルは血小板凝集に関係することから、血小板TPシグナルの関与を検証することができた。これらに加え、来年度に予定した肝類洞内皮の関与についても一部検討をすることができた。
本研究によって確立したSOSモデルを用いて当初の実験計画に沿って、本研究を進めていきたい。とくにTPシグナルは肝類洞内皮に発現していることを確認し、肝類洞内皮におけるTPシグナルがSOSに関与する可能性があることから、さらに詳細な検討をおこなう。また肝障害におけるマクロファージの果たす役割は極めて重要であり、本実験モデルにおいても、その重要性を検証する予定である。
購入予定であった消耗品の納入が間に合わなかったために次年度に繰り越した。今年度使用しなかった研究費については、一般試薬、抗体の購入に使用する。
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J Hepatol
巻: 69 ページ: 110-120
10.1016/j.jhep.2018.02.009.