肝類洞閉塞症候群 (Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS) はオキサリプラチンに代表される抗がん剤治療や造血幹細胞移植後に惹起される肝障害である。重症の場合は多臓器不全を合併し致死的となる。その原因は不明で、有効な治療法も確立されていない。肝類洞閉塞症候群症例では血小板や血液凝固異常の可能性が指摘されている。そこで本研究ではモノクロタリン投与によるマウスSOSモデルを用いてトロンボキサンA2の受容体(TP)シグナルの役割について検討をおこなった。C57BL6マウス(野生型マウス)またはTPノックアウトマウス(TPKOマウス)にモノクロタリンを投与した。生存率は野生型マウスよりTPKOマウスで著明に減少した。このとき肝臓内のTxA2合成酵素mRNA発現量やTxB2(TxA2の代謝産物)産生量は両群で上昇した。TPKOマウスで肝障害が増悪したが、肝内や末梢血液中の血小板数には差はなかったことからTPシグナル欠損は血小板を介してSOSを増悪させたとは考えられなかった。一方TPは肝類洞内皮に発現した。モノクロタリン投与により、TPKOマウスでより肝類洞内皮構造が破壊され、また肝類洞内皮障害マーカーはTPKOマウスで増加した。さらにTP受容体シグナルの肝類洞内皮細胞における役割を調べるために培養肝類洞内皮細胞をモノクロタリンで刺激した。生存率はTPKOマウスで減少し、類洞障害関連マーカーのmRNA発現は増加した。トロンボキサンA2アナログを野生型由来肝類洞内皮細胞に投与すると、障害は軽減した。この結果からSOSではトロンボキサンA2受容体シグナルが肝類洞内皮を保護することで肝障害が軽減したものと考えられた。
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