本研究では、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease; 以下、IBD)の炎症持続状態において産生される血管新生因子に焦点をあて、特に内因性の血管新生阻害物質であるThrombospondin-1 (以下、TSP-1)に注目した。TSP-1は内因性の血管新生阻害物質で、活性化された血小板・単球・マクロファージや種々の上皮細胞から分泌され、CD36分子を介して内皮細胞の接着、遊走、増殖を阻害し、また内皮のapoptosisを引き起こす。また、VEGF、CD31、TGF-β1、TGFβR2などといった各種サイトカインもIBD患者大腸組織中の炎症反応に強く相関していると考えている。本年度では、2007年1月1日から2018年7月31日までの間に、北海道大学病院消化器外科Ⅰ(旧:消化器外科・一般外科)に入院した患者で,同期間内に潰瘍性大腸炎に対する手術を受け、保管検体を有する症例から、先ず10症例を選択した。各症例の大腸組織における高度炎症部位と正常部位からそれぞれサンプルを採取し、免疫染色、mRNA定量を行った。しかしながら、免疫染色、mRNA定量共にTSP-1の発現の程度が低く、検体保存方法の再検討が必要となった。追加検体として、ホルマリン保存したサンプルのHE染色、免疫染色を追加で行った。HE染色においては、潰瘍性大腸炎の臨床的炎症強度に応じた炎症細胞浸潤が認められ、免疫染色では、炎症強度に比例するようにCD31の発現が見られた。一方で、TGF-β発現は炎症と有意な相関が認められなかった。TSP-1については、免疫染色では保存方法が異なる検体への変更や染色条件の変更などを行ったが、潰瘍性大腸炎、対照群(大腸癌患者組織)のいずれにおいても一定の発現が認められなかった。その為、メッセンジャーレベルでの発現を追加検討するためにPCRを施行した。対照群としての大腸癌患者組織の正常部ではTSP-1高値、癌部では低値の傾向が認められたが、潰瘍性大腸炎組織では明らかな相関は認められなかった。
|