背景:我々は膵癌切除検体を用いた3次元培養法(CD-DST法)が,S-1による補助治療の効果予測に有用であることを明らかにした.しかしながら膵癌は間質成分が多く,3次元培養に必要な細胞を確保することが困難であった.本研究の目的はCD-DST法の結果をもとに抗癌剤の効果を予測しうる因子について探索することにある. 方法:以下の3段階に分けて行った.Step1: CD-DST法による5FUの感受性結果から高感受性,低感受性と診断された5例を選択し,パラフィン包埋切片より癌部のみを抽出し,プロテオミクス解析を行う.Step2:免疫染色法を行い,CD-DST法の結果を補完しうる因子を選定する.Step3: S-1による補助治療が施行された症例を対象とし,免疫染色法による発現の差異を評価することで,S-1投与後の再発を予測しうる因子を検証する. 結果:プロテオミクス解析にて2696種のタンパク質を抽出した.統計解析から,高感受性群で発現が増加した39因子,低感受性群で増加した5因子を抽出した.44因子のうち,CD-DST法の結果を予測しうる因子としてC1TC,SAHHの2種類を選定した. S-1による補助治療が施行された49例のうち,C1TC,SAHH両陽性例は23例,いずれかが陰性である症例は26例であった.両陽性群は陰性群に比較し有意にS-1投与後の再発が抑制され,補助治療を行わなかった症例と比較しても高い再発抑制効果が認められた.一方いずれかが陰性であった場合には補助治療のない症例と比較しても,再発率はほぼ同等であった. 結語:膵癌術後のS-1補助治療の効果予測にC1TC及びSAHHの発現評価は有用な指標になりうるものと考える.
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