研究課題
小膵癌の切除組織からDNAを抽出し、小膵癌特異的なゲノム、エピゲノム異常を検出する目的で研究を開始した。当科で保有しているホルマリン固定パラフィン包埋組織から膵管内高度異型上皮細胞をLaser-capture microdissection(LCM)法を用いて抽出を行ったが、次世代シークエンスを行うためのライブラリの収量が著しく低いことが明らかであったことは前年度の報告の通りである。様々な条件検討の結果として、LCMによるレーザー照射がDNAの品質に大きく影響を与えていることが考えられた。種々の条件検討の結果、Pancreatic intraepithelial neoplasia(膵上皮内腫瘍性病変)は肉眼では観察困難な病変であることからLCMを行わずに高純度の腫瘍組織のサンプリングは困難と判断し、さらに膵癌の前癌病変として代表的な膵管内乳頭粘液生腫瘍(IPMN)に着目した。IPMNは良性から悪性、さらには浸潤癌まで幅広い組織異型度を呈するslow-growingであるが、悪性の存在が疑われる病変に対しては積極的な切除が推奨されている。IPMNは膵管内に充満するように乳頭状の構造を呈することから、肉眼的に観察可能な病変である。実際にホルマリン固定パラフィン包埋組織から腫瘍部を採取し、次世代シークエンスを行ったところ膵癌関連遺伝子変異が検出されることを確認した。膵癌に至る前のIPMNを適切なタイミングで切除するためには、高精度な悪性度予測が必要であり、今後は浸潤に至る前段階のhigh-grade dysplasiaと呼ばれる膵管内病変、またはIPMNに由来した微小浸潤癌(小膵癌)の早期診断を可能にするためのバイオマーカーを探索するべく、種々の検討を加えている。
3: やや遅れている
Laser capture microdissection(LCM)を用いて採取したDNAからはシークエンス用のライブラリの作製が困難であり、ライブラリの作製の過程でPCRのサイクル数を増やす等の条件検討を加えたが安定したライブラリの収量は得られなかった。そこで、膵癌の前癌病変としての膵管内乳頭粘液生腫瘍(IPMN)に着目した。IPMNは膵管内に乳頭状に発育する肉眼的にも観察可能なサイズの病変であることから、LCMを用いなくても高純度な腫瘍細胞(組織)の採取が可能である。また、IPMNはslow-growingでありながらも進行すると浸潤癌に至るため、膵癌のハイリスク群としてIPMN症例を囲い込み、さらにバイオマーカーを用いたサーベイランスで組織異型度を予測し、浸潤癌に至る前段階で治癒切除を行う戦略は膵癌全体の治療成績の向上の大きく寄与しうるものである。現在は様な組織異型度を呈するIPMN病変からDNAを採取し、いくつかの病変に対してはシークエンスを行い、いつくかの癌関連遺伝子変異の情報を得ることができた。現在は広義のリキッドバイオプシーへの応用を図るべく、悪性転化した(高度異型上皮または微小浸潤癌が出現した)腫瘍の早期発見のためのバイオマーカー研究に着手を開始した。探索的候補コホートからcell-free DNAやmiRNAを抽出し、網羅的発現解析へ向けた準備をはじめているところである。
今後は膵癌の前癌病変であるIIPMNの組織異型度を予測することで、小膵癌(微小浸潤癌)を高精度の診断するためにバイオマーカーの開発に焦点を絞っていく。ゲノム異常については、悪性特異的なTP53遺伝子変異に注目し、組織中と血液中から次世代シークエンスとデジタルPCRの技術で検出を試みる。cell-free DNAについてはmassiveに浸潤しないと腫瘍由来DNAが血液から検出されにくい困難な可能性も予想され、より高感度に検出するために既存の方法にいつくか改良を加えている。同時にタンパク質やエクソソームなどのバイオマーカーも検索していく。今後は良性のIPMNとみなされてる低異型度上皮と微小浸潤癌(小膵癌)の血液サンプルを用いて、網羅的にmiRNAや分泌蛋白、代謝産物を定量・比較検討を行う計画である。
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