研究課題/領域番号 |
18K16339
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀幸 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 助教 (30526439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 流体解析 / 粒子法 / 狭窄部位のマッピング / DSS誘発マウス腸炎モデル |
研究実績の概要 |
A) 消化管の流体モデルをコンピュータ上でシミュレートする:消化管は、血管や気道と比較して、現象の複雑性があり、流体モデルの作成が非常に難しいことが分かった。そのため、血流のシミュレーションなどとは違った視点でのアプローチが必要であると考えた。我々は粒子法に着目した。粒子法は、気液二相流を表現できる、粘性体や弾性体を同じ枠組みの中で解析できる、壁面の運動を組み込むことができる、といった特徴を持ち、消化管の流体モデルを作成するのに適していると考えた。今回、一般向け物理演算エンジンであるLiquidFunを用い、粒子法による消化管の流体モデル作成の妥当性を検証した。精度は高くないが、腸内容の流れの視覚的表現がしやすく、流体の組成変化を加味しやすいという点で、この方法の発展性が期待された(第119回日本外科学会定期学術集会で発表)。 B) 消化管の流体力学とクローン病との関係を結びつける:これまで我々は、クローン病による腸の狭窄に対し手術を行った部位をマッピングし、流体力学との関係を考察してきた。今回、このマッピングを患者背景別に詳細に行ったところ、発症から2年未満で手術にいたる症例では、より口側小腸に手術が必要な狭窄病変が及んでいる場合が多いことを見出した(第73回日本大腸肛門病学会学術集会で発表)。こうして得られた知見から、さらに疾患と流体力学との関係を考察したいと考えている。 C) 動物モデルを用いて検証する:クローン病のモデルしては、当教室で使用経験の豊富なDSS誘発マウス腸炎モデルを用いることにした。このモデルでは狭窄の原因となる腸管の線維化が観察できる。線維化を最も引き起こす薬剤投与の条件を検討した結果、C57BL/6マウスに7日間1.5% DSSを自由飲水させ、その後14日間DSS freeというサイクルを3サイクル程度繰り返すことが良いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
消化管は、血管や気道と比較して、以下のような現象の複雑性があり、流体モデルの作成が非常に難しい ― 1)流体の組成が複雑である、2)蠕動運動がある(自律神経による制御機構の理解が必要)、3)通過中に流体の化学変化や吸収が起こる。そのため、流体解析のためには、その手法から考え直す必要があった。 また、炎症性腸疾患の動物モデルとしては、急性炎症や炎症性発癌は比較的容易に再現できるが、腸管狭窄を再現するのは容易ではない。今回は、狭窄の原因となる腸管の線維化を再現する方針とし、そのために使用するマウスの種類、投与する薬剤の種類、投与方法などを慎重に検討する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、A) 消化管の流体モデルをコンピュータ上でシミュレートする、B) 消化管の流体力学とクローン病との関係を結びつける、C) 動物モデルを用いて検証する、をそれぞれ研究計画に基づいて進めていく予定であるが、流体力学については専門性が高いため、工学分野の研究者とのディスカッションや、より扱いやすい物理演算エンジンの入手などの対応が必要ではないかと考えている。クローン病の病態を流体力学的観点からアプローチする研究はこれまで前例のないものであるため、得られた成果は積極的に発表し、そこでの議論を次の研究につなげていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、研究遂行上、必要に応じて研究費を使用しているが、例えばコンピュータ上の解析では、導入としてオープンソースの物理エンジンLiquidFunを用いることで、ハードウェア・ソフトウェアとも一切費用が生じないなどしたため、見込額よりも使用額がやや少なく推移した。ただ今後さらに研究を遂行していくにあたり、特に動物実験等で、当初見込まれた研究費を使用する必要があると考えており、前年度の研究費を含めて、当初の研究計画を進めていく。
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