研究課題/領域番号 |
18K16354
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
山田 大作 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 消化器外科医長 (60571396)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 膵癌治療抵抗性 / バイオマーカー / microRNA / エクソソーム |
研究実績の概要 |
膵癌治療効果改善のため,膵癌の治療耐性を獲得する症例を事前に同定できるバイオマーカーの検討を行うことを目的とし,3つのステップで実験を進めていく. まず,①膵癌術後再発に対して治療を行った症例を対象に,再発治療に対して有効性が低く,抵抗性を示した症例と,比較的有効であった症例を比較し,治療抵抗性に関わる臨床病理学的因子および遺伝子の同定を行う.次に,②治療抵抗性を示した症例郡に対して術前治療を行った際に,選定した遺伝子が誘導されていたのかについて検証を行う.以上の結果で,膵癌治療耐性を獲得する症例を遺伝子バイオマーカーで同定できる可能性が示されれば,③基礎実験(細胞実験および動物実験)によって,検証を行う. 上記の計画のうち,平成30年度の予定では基礎実験の前提となる遺伝子の同定までを行う予定であった. まず,再発治療抵抗性に関して後方視的検討を行い,再発部位が肝転移であった症例は治療抵抗性を示し,一方で肺転移再発の症例は治療の反応性が比較的良いことを証明した.これを受けて,肝転移再発症例および肺転移再発症例の手術後血清サンプルからエクソソームを抽出し,microRNAの網羅的遺伝子発現検査を行った.これにより体内に潜伏している肝転移巣癌細胞の影響をうけたmicroRNAと肺転移巣癌細胞の影響をうけたmicroRNAの比較となり,治療抵抗性のちがう膵癌細胞の比較ができると考えた.この結果いくつかの候補遺伝子が同定され,この内過去文献から肝転移と関与しうる遺伝子を標的とするmicroRNAであるmiR26aを同定した.この遺伝子が,肝転移症例では術前治療によって低下することが示され,標的とするITGA5(インテグリンの1種,肝転移に関与)の癌での発現がmiR26aの発現と相関していることを証明した.今後基礎実験でこうした臨床知見と矛盾しないか検討を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初立てた計画進行と概ね乖離なく進行しているため.
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今後の研究の推進方策 |
現在まで順調に候補遺伝子の同定まで進んでおり,今後は予定通り基礎実験として同定した候補遺伝子とその標的となる蛋白について,膵癌細胞株に遺伝子導入による強制発現およびノックダウンさせる実験系を行い,抗癌剤治療耐性となるのか検討を行う.また一方で抗癌剤暴露によって耐性が誘導されやすいかどうかについても検討する.またマウスを用いて,遺伝子導入による強制発現およびノックダウンさせた膵癌細胞株について,抗癌剤暴露の有無によって肝転移や肺転移しやすくなるのか検証し,バイオマーカーとしての確からしさについて検討する予定である. こうした基礎実験の一方で,肝転移巣などについて生検などで細胞が得られる機会があれば,得られた細胞についてmicroRNAや標的蛋白発現について検討を行い,矛盾がないか検証したり,今後の術後症例全例の血清から候補microRNAの発現を調べ,再発について検証するなど前向きな検討をしたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初網羅的遺伝子解析可能な対象症例を300症例と考え,可及的多くの症例を用いて網羅的遺伝子解析を行う予定であったが,治療抵抗性を示す症例の絞り込みの際に,対象症例が減少し,1年目に見込んでいた検査を最小限の費用で行うことが可能であった.もちろん症例が減ったため候補遺伝子の同定にパワー不足となることを危惧していたが,現在まで有望な遺伝子の同定に成功していると考えている.このため選定に用いなかった費用分は,検証に用いることが可能であり,より前向きに臨床応用可能な形での実験結果が得られる可能性が高まったと考えている.しかし残念ながら基礎実験で思わぬ結果となった際には,再度候補遺伝子の選定から行う必要があり,この際には対象症例を広げて検討を行う必要があり,今年度余剰となった費用はいずれにせよ必要となる見込みである.
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