研究課題/領域番号 |
18K16362
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
菊地 覚次 岡山大学, 大学病院, 助教 (40736584)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 胃癌 / 腹膜播種 / 腫瘍溶解ウイルス / 癌微小環境 / 癌関連線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
胃癌腹膜播種の癌微小環境を解明するために、まず外科的切除された胃癌腹膜播種結節を免疫染色で解析したところ、CAF(cancer-associated fibroblast)マーカーであるα-SMAは16例全例で高発現しており、また腫瘍免疫抑制的に働くIL-6も16例全例で発現しており、腫瘍免疫として働く腫瘍浸潤リンパ球であるCD8は発現が低く、腹膜播種における癌微小環境において、CAFが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 また胃癌細胞株に対して、p53搭載多機能性腫瘍溶解ウイルス(OBP-702)の抗腫瘍効果をXTT assayにて解析したところ、p53非搭載ウイルス(OBP-301)に比べてより強力な抗腫瘍効果を示した。さらに、OBP-301抵抗の胃癌細胞株に対しても、OBP-702は抗腫瘍効果があり、パクリタキセル(PTX)との併用治療による相乗効果も証明した。 次に食道線維芽細胞(FEF3)に対してTGF-βや癌細胞培養液刺激により、人工的にCAFを作成し、CAFに対するOBP-702の効果について検証したところ、OBP-702を作用させると、CAFマーカーであるα-SMAやFAPの発現が低下することをwestern blot解析で証明した。さらに、OBP-702は正常線維芽細胞であるFEF3の生存に対して影響を与えないのに対し、CAFに対しては生存率を低下させることがわかった。この結果から、OBP-702は癌細胞に抗腫瘍効果を示すのみでなく、CAFに対しても腫瘍抑制的に働く可能性が考えられた。 今後マウス胃癌腹膜播種モデルを作製し、癌微小環境における免疫系の影響を解析するため、マウス胃癌細胞株を入手した。そして、マウス胃癌細胞株に対するOBP-702の抗腫瘍効果を検討したところ、強力な抗腫瘍効果を示すことわかり、今後さらなる解析を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外科的に切除された臨床検体を用いた解析では、切除された腹膜播種のCAFや免疫関連マーカーによる免疫染色を行い、胃癌腹膜播種形成においてCAFの影響を示唆するような結果を得て、想定していた通りに進んでいる。さらに胃癌原発巣と腹膜播種との関連についても、進めていきたいと考えている。 また、ヒト胃癌細胞株に対して腫瘍溶解ウイルス(OBP-702)の抗腫瘍効果を証明することができた。さらにはパクリタキセル(PTX)との併用による相乗効果も示すことができ、今後の研究を進める上で、順調に進捗していると考える。ヒト胃癌細胞株のみならずマウス胃癌細胞株に対してもOBP-702が抗腫瘍効果を持っていることが証明できたため、今後vivoモデルを用いた腫瘍免疫学的解析もスムーズに行えるものと考える。 さらに、OBP-702は癌抑制遺伝子であるp53を搭載しているため、癌細胞のみでなく、CAFに対しても抑制的に働き抗腫瘍効果を示すことを当初期待していたが、想定していたように、OBP-702がCAFマーカーを低下させることを証明でき、今後のOBP-702がCAFに与える影響について解析を進める道筋が立ったと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
まずCAFについて、p53の機能解析を進め、p53が変異や機能異常を起こしていないかどうかを解析する。さらに、OBP-702がCAFに対して抑制的に働き、癌細胞のみならずCAFに対しても抗腫瘍効果を示す可能性が考えられるため、今後はCAFにOBP-702を作用させた機能解析を進めていきたいと考える。具体的にはCAFが分泌する腫瘍促進的なサイトカインをOBP-702が抑制するかどうかについてELISAやwestern blot解析にて行う予定である。 また、免疫原性細胞死について解析を行うため、腫瘍免疫を誘導するATPやHMGB-1がヒト胃癌細胞株にOBP-702を作用させたことによって誘導されるかどうかについて、ATP assayやELISAによって解析する予定である。 In vivoの実験では、ヒト胃癌細胞株およびCAFを用いてヌードマウスに胃癌腹膜播種モデルを作製し、OBP-702、PTXを腹腔内投与した際の治療効果や相乗効果についても検討する予定である。 さらに、マウス胃癌細胞株を用いて、マウスで同所性胃癌腹膜播種モデルを作製し、腹膜播種局所や腹水中の癌微小環境についての解析を行い、OBP-702の腹腔内投与による治療実験やPTXなどの化学療法との併用、抗PD-1抗体との併用実験を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験で使用する抗体や試薬等が所属研究室所有の既存のものを使用できたために、消耗品請求額を抑制することができたが、臨床検体を用いた解析においても、さらに症例数を増やした解析が必要であり、次年度に消耗品の購入が必要であると考える。また、当初マウス胃癌細胞株の取得ができていなかったため、動物モデルの腫瘍免疫の解析が困難であると考えていたが、マウス胃癌細胞株を取得することができたため、免疫をもったマウスに胃癌腹膜播種モデルを作製し、治療実験を行い、腫瘍免疫に与える影響等も評価を予定しているため、動物実験で使用するための予算として計画している。
|