研究課題
がん幹細胞は抗がん剤や放射線に対する抵抗性や、がんの再発・転移に重要な役割を果たしており、がん幹細胞を標的とした創薬が求められている。近年、がん幹細胞においてオートファジー活性が上昇していることや、オートファジー活性を低下させることでがん幹細胞に対する抗がん効果が得られることが報告されている。しかし、既存のオートファジー抑制剤はリソソームの機能抑制が標的となっているため、様々な副作用の問題が指摘されており、新しい標的の同定が求められている。そこで本研究はオートファジー活性制御を介した肝細胞がん幹細胞に対する治療法の開発を目的とした。2018年度は、項目A がん幹細胞におけるBeclin 1 Ser90リン酸化の役割の解明、項目C Beclin 1 Ser90リン酸化の腫瘍形成における役割の解明に関して解析を行った。項目Aに関しては、肝がん細胞株から誘導したがん幹細胞において、Beclin 1 Ser90がリン酸化されていること、そのメカニズムとしてBeclin 1 Ser90を脱リン酸化するPP2Aの阻害タンパク質の一つであるSETの発現が上昇していることが認められた。さらに申請者が最近同定した、オートファジー制御因子PP6の発現も上昇することが認められた。項目Cに関しては、Beclin 1 の野生型およびBeclin 1 Ser90の変異体を発現させた細胞株の作製を行った。またこの細胞株を用いてコロニー形成試験を行ったところ、Beclin 1 Ser90のリン酸化変異体でコロニー数の増加が認められた。今後は、Beclin 1 Ser90リン酸化に至るシグナル経路として、SETに着目して検討を行っていき、並行してPP6ががん幹細胞に与える影響を検討していく。また、Beclin 1 Ser90の変異体を発現させた細胞を免疫不全マウスに移植し、がんの成長や転移に与える影響を解析する。
2: おおむね順調に進展している
2018年度は、項目AはBeclin 1 Ser90リン酸化が、がん幹細胞形成に与える影響の解析、がん幹細胞でBeclin 1 Ser90リン酸化に至るシグナル解析を行い、項目Cはがんの成長・転移におけるBeclin 1 Ser90リン酸化の役割の解析、肝がんサンプルから組織切片の作製・がん幹細胞の回収、Beclin 1 Ser90リン酸化の腫瘍マーカーとしての可能性の解析を行う計画であった。項目Aに関しては、Beclin 1 Ser90リン酸化変異体発現細胞の作製、Beclin 1 Ser90リン酸化に至るシグナルとしてPP2Aの阻害因子であるSETの発現が上昇することを明らかとした。また、オートファジー制御因子として申請者が以前同定していたPP6の発現も上昇していることを明らかにした。さらに、PP6のがん幹細胞での役割についても検討を行い、PP6ががん幹細胞の制御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。項目Cに関しては、項目Aで作製した細胞を用い、コロニー形成試験を行い、Beclin 1 Ser90のリン酸化によりコロニー形成数は増加することが明らかとなった。肝がんの組織切片作製は順調に行っている。組織からのがん幹細胞の回収については現在マグネットビーズを用いての条件検討を行っているところである。以上のことから、項目Aの当初計画していた項目に関してはおおむね順調に進捗しており、当初計画以外の項目に関しても進捗していることから計画以上に進捗していると考える。項目Cに関しては、項目Aを優先した結果、計画より若干遅れがみられるが、全体を通してはおおむね順調に進捗していると考える。
若干遅れが見られる項目Cに関しては、作製した切片を用いた免疫染色や条件検討を行ったがん幹細胞の回収を進め、ウエスタンブロッティングなどの解析を行い、当初計画に追いつきたい。項目Aに関しては、2018年度に得られた知見をもとにSETに着目して解析を行っていく予定である。また、当初計画になかったPP6が、がん幹細胞を制御する詳細なメカニズムについても次世代シーケンサーを用いての網羅的な解析などにより明らかにしていきたい。
2018年度に購入を予定していたNOD/SCIDマウスを、予備検討の結果、本研究室で繁殖させている重度免疫不全マウスで代用することができ、購入しなかったため次年度使用額が生じた。次年度は、本研究を行い新たに同定したがん幹細胞制御因子として考えられるPP6についての解析を並行して行う予定である。そのため、当初計画に加え、抗体、試薬の購入を追加する。
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