研究実績の概要 |
本研究では、蛍光X線分析という工学的アプローチを用いて、oxaliplatinを投与した大腸癌の腫瘍組織中の白金や生体内必須元素の局所かつ微量な分布を可視化することで、抗癌剤の腫瘍内動態や細胞活性の変化を明らかにすることを目的としている。 【1.大腸癌組織中の白金や生体内必須金属元素の分布と抗腫瘍効果との関連性の検討】術前にoxaliplatinを含む抗癌剤治療を受けた進行大腸癌の切除組織標本30例に対して、大型放射光施設SPring-8を用いて蛍光X線分析測定を行い、腫瘍上皮および間質での白金の集積を評価した。腫瘍組織中の白金分布に関して、腫瘍上皮では腫瘍の治療効果に伴う変性部位に白金の集積が多く、逆に腫瘍間質では、治療効果の乏しい症例ほど集積が多い結果であった。また、FeやZn, Cu, K, Caといった生体内必須元素の集積を検討したところ、治療効果によってCuの分布にも差があり、白金とCuとの排出経路に関連があることが示唆された。 【2.抗癌剤感受性予測因子の同定】oxaliplatinを使用した進行大腸癌の切除標本における遺伝子発現プロファイル解析を行い、治療効果によりROS (Reactive oxygen species) 関連遺伝子の発現の変動を確認した。 これらの結果から、術前の腫瘍組織でのROS関連遺伝子発現を解析することで、大腸がん治療のkey drugである白金製剤の治療効果を予測することが可能と考える。さらに、化学療法中に何らかの方法で腫瘍組織をサンプリングすることができれば、腫瘍組織中の白金分布を測定することで治療効果あるいは抗癌剤耐性の予測を高精度に行うことができ、大腸癌に対してより効率的で個別化した治療が可能となると考えられる。
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