研究課題
肝虚血再潅流障害は肝切除手術、肝移植、外傷、出血性ショックなどで起こりうる病態である。肝虚血再潅流障害により引き起こされた炎症の収束や組織修復の遅延は、肝不全に至り患者の予後は極めて不良となる。しかしながら、肝障害後の肝修復制御機構については不明な点が多い。本研究ではプロスタグランジン(PG)E2受容体サブタイプの一つであるEP3受容体シグナルが肝虚血再潅流後の肝組織修復に果たす役割とその制御機構を解明することを目的とした。野生型マウス(WT)およびEP3受容体ノックアウトマウス(EP3-/-)に70%肝部分温虚血(45分)を行い、再潅流後の肝修復過程を比較検討した。WTに比較して、 EP3-/- で肝障害が遷延し、肝再生因子発現が抑制されるなどの所見がみられ、肝修復が遅延した。薬理学的検証では選択的EP3アゴニスト投与により再潅流障害は軽減され、逆にEP3アンタゴニスト投与により再潅流障害は増悪した。肝修復期におけるマクロファージの表現形式を調べるとLy6C(hi)マクロファージがEP3-/- で多く、Ly6C(lo)マクロファージはWTで優位であった。肝虚血再潅流によって合成されるPGE2はEP3受容体サブタイプに作用してLy6C(lo)マクロファージを集積させることで肝修復を促進する可能性が示唆された。しかしながら、マクロファージの形質転換のメカニズムは未解明である。肝修復に関与する免疫細胞として樹状細胞の可能性を遺伝子発現解析や免疫染色法で調べた。また肝虚血再潅流後の樹状細胞(CD11c陽性細胞)肝集積の経時的変化を検討した。さらに樹状細胞集積がEP3シグナルに依存するかどうか、また樹状細胞がEP3を発現するかどうかを検証した。
2: おおむね順調に進展している
本研究が、当初に立案した実験計画に沿って、ほぼ順調に遂行されている。今年度においては、マウス肝虚血再潅流障害モデルを用いてプロスタグランジン(PG)E2受容体サブタイプの一つであるEP3受容体シグナルが肝虚血再潅流後の肝組織修復に果たす役割を検証することができた。特に肝修復に深く関与するマクロファージにおけるEP3受容体シグナルについてフローサイトメトリー法、発現遺伝子や免疫染色法にて解析することができた。また樹状細胞の集積についても同様の方法を用いて解析することができた。
当初の実験計画に沿って、本研究を進める。次年度においてはさらにマクロファージの役割を検討する。このために培養骨髄マクロファージを用いてEP3受容体シグナルが肝修復に関係するマクロファージに分化するかどうかを調べる。さらに樹状細胞の肝修復における関与を明らかにするために、さらに詳細な解析をフローサイトメトリーなどの解析方法により検討する。さらに樹状細胞の役割解明のために、培養樹状細胞を用いることによりEP3受容体シグナルが修復に関係するかどうかを検討する予定である。
購入予定であった消耗品の納入が間に合わず次年度に繰り越した。今年度使用しなかった研究費については、一般試薬の購入に使用する。
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J Hepatol
巻: 69 ページ: 110-120
10.1016/j.jhep.2018.02.009