現在のがん診療において、未だ予後不良の癌腫がある。これらは難治性がんと呼ばれ、例を挙げると膵臓がんや骨軟部腫瘍の一部が含まれる。難治性がんの周囲には特殊な環境が形成されており、既存の治療成果が乏しい原因となっている。本研究においては、難治性がんの血管内皮細胞の性質を変化させることにより、免疫治療を円滑に作用させる新しいコンセプトの治療法の開発に着手した。 (1)国立がん研究センターにおいて切除された難治性がんの手術検体から、腫瘍細胞、腫瘍血管内皮細胞、がん関連線維芽細胞、腫瘍内に浸潤したリンパ球などを個別に分離して培養する技術を確立した。 (2)次に、マイクロアレイによる網羅的発現解析を行い、腫瘍血管内皮細胞における特徴的な発現プロファイルを明らかした。その結果、難治性がんの血管内皮細胞には、リンパ球の接着・透過を促すパスウェイAのエフェクター分子Bの発現が顕著に低下していることが明らかとなった。着目した分子Bについて、約100例の難治性がんの臨床検体を用いて、盲検下において病理組織学的に解析した。その結果から、腫瘍血管内皮細胞において、分子Bの発現が上昇している患者では、生命予後が延長していること統計学的に確認された。 (3)該当したパスウェイAをターゲットとする化合物のライブラリを構築し、スクリーニングすることによって、目的とする分子Bの発現を上昇させ、リンパ球の腫瘍血管内皮細胞への接着・透過を促進させる化合物Xを同定した。 (4)難治性がんを移植したモデルマウスを作成し、候補化合物Xを投与して治療効果を評価した。その結果、化合物Xを投与した群では、移植した腫瘍組織は縮小する傾向性を示し、分子Bの発現は高頻度で発現が認められ、腫瘍内に浸潤したリンパ球は増加して観察された。これらの結果から、化合物Xは腫瘍内にリンパ球浸潤を促し、免疫治療を倍加させる薬剤として同定された。
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