研究課題
末梢動脈疾患に対する外科的血行再建では、大伏在静脈を用いることが多い。しかし、20-30%の割合で、グラフト狭窄を生じ、閉塞に至ってしまう点が臨床上の問題である。本研究課題では、下肢動脈再建に用いられる大伏在静脈におけるグラフト狭窄の原因を同定することを目的としており、前回の若手研究結果から大伏在静脈の弁部にグラフト狭窄と関連するターゲットが存在することを証明した。これらの結果を基に、大伏在静脈弁部平滑筋細胞の独自の細胞機能、細胞同定を次なる目標に取り組んでいる。下肢動脈再建で用いられる大伏在静脈の余剰片を培養して獲得したmRNA、余剰片から遊走した細胞から獲得したmRNAを比較して、ex-vivo及びin-vitroの双方から機能が合致するmRNAターゲットを同定した。グラフト狭窄に関連する弁部に特徴的なターゲットが、静脈壁を構成する平滑筋細胞にどのように機能的に影響を与えるかを評価している。具体的には、静脈平滑筋細胞に対して、ターゲットのknockdouwn、overexpressionのため、それぞれ遺伝子導入を行い、表現型の変化を確認している。これらの実験結果から、静脈壁細胞におけるターゲットの機能を証明したい。来年度の課題として、弁部組織の組織標本や遊走細胞の解析を進め、弁部狭窄に関わるターゲットの証明と狭窄に関与する細胞を同定する予定である。今後の自家静脈を用いたバイパス手術の狭窄抑制の手がかりになると共に、この30年間に解決できなかったグラフト狭窄のメカニズム解明と治療への第一歩となる。
3: やや遅れている
すでに組織と細胞からのRNAシークエンスを終え、大伏在静脈弁部に特徴的なターゲットを同定している。現在、本ターゲットのknockdownおよびoverexpressionにて、大伏在静脈平滑筋細胞に対する機能を評価している。余剰片を用いて細胞を新規に採取しているが、平滑筋細胞増殖能のばらつきが大きい。血行再建対象となる末梢動脈疾患患者は、腎機能障害、糖尿病など多数の背景疾患が併存しており、これらの背景疾患に関連して細胞増殖能に違いが生じているのかは定かでない。上記機能評価には、ある一定の増殖能を持つ細胞を用いて行う必要があるため、細胞をある程度選定し行っている。これらの問題から、機能評価がやや遅れていることを追記する。細胞同定については、弁部組織が思いのほか獲得出来ず、弁部組織からの遊走した細胞の免染などの実験が滞っているのが現状である。来年度では、組織が獲得された際に細胞を獲得して実験に進める必要がある。
細胞機能評価が終了しターゲットの有用性を確定した後、さらに実際の弁部の採取が困難であるが、余剰片に弁部が含まれている場合に組織標本提出しており(現在N=2程度)、今後上記ターゲットを染色して組織学的に弁部、非弁部のターゲットの発現の違いについても評価予定である。パスウェイ解析まで行うかは、時間と研究費の兼ね合いによる。本研究課題が終える前にターゲットによる表現型への影響だけでも、論文として発表したい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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