研究実績の概要 |
本邦において、高齢社会の進行により大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis, AVS)は発病率が増加し、加齢変性と石灰化(AVC)により徐々に進行する。狭心痛や心不全などの自覚症状が出るまで20-30年の無症状期があると報告されている。しかし、石灰化の進行を抑制する薬物がないという現状にある。 本研究室は、AVS患者の石灰化した大動脈弁より大動脈弁間質細胞(HAVICs)を単離した。これらのHAVICs細胞は腫瘍壊死因子(TNF-α)や高リン酸の刺激に対して感受性が高く、石灰化が亢進することを証明した。さらに、石灰化関連遺伝子 骨形成タンパク(BMP2)の発現亢進/アルカリホスファターゼ(ALP)の活性上昇を明らかにした。HAVICsの中に、高リン酸条件下で石灰化しやすいCD34-/CD45-/CD73,90,105+の未分化細胞が存在すると証明した。 同時に、TNF-αおよび高リン酸誘発性石灰化をモデルにし、石灰化の進行を抑制する天然物や漢方薬の探索を行っていた。その中には、抗炎症作用のある漢方薬である黄連解毒湯はTNF-αおよび高リン酸誘発性石灰化の進行を有意に抑制した。また、 TNF-αおよび高リン酸によるBMP2の発現亢進とALPの活性上昇も有意に抑制した。 黄連解毒湯は四つの生薬(オウレン、オウゴン、オウパク、サンシシ)で構成されているため、各種の生薬は同様な石灰化抑制する効果があるかについて検討した結果、3種類(オウレン、オウゴン、オウパク)の生薬はTNF-αおよび高リン酸誘発性石灰化に対して抑制効果を認めた。上記は大動脈弁石灰化を抑制する薬物治療の候補になりうると考えている。また、黄連解毒湯をラットに長期投与しても、有意な肝機能障害や腎機能障害を認めず、石灰化に対して薬物予防治療方法を確立するのに有力な資料を得た。
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