研究実績の概要 |
慢性期のB型大動脈解離やA型解離術後の残存解離に対する、薬物療法(血圧コントロール療法)の瘤径拡大に対する抑制効果は一定でない。一方、遺伝性疾患を除き、大動脈解離の発症・進展は、高血圧を背景に、慢性炎症を基盤とした動脈硬化に起因する。抗生物質のクラリスロマイシンは、抗菌作用だけでなく「抗炎症作用」などの多面的効果を持つことが分かっている。研究代表者は、その抗炎症作用を利用して、クラリスロマイシンが動脈硬化性大動脈瘤の発症・破裂に対する予防効果のあることを明らかにした。本研究計画では、大動脈解離における一連の炎症反応を是正する新たな薬物介入療法として、クラリスロマイシンによる大動脈解離の発症予防及び瘤径拡大抑制効果について、その是非を明らかにすることを目的とする。 本年度では、解離性大動脈瘤モデルを用いた検討を行った。12週齢の野生型マウスに1000ng/kg/minのAngiotensin IIおよび300mg/kg/dayの3-Aminopropionitrileを、皮下に埋植した浸透圧ポンプで2週間持続注入し、大動脈解離を誘発させた。継時的(0,1,2週後)にエコーで大動脈径を測定し、正常と比べて1.5倍以上の径拡大および 解離を認めたマウスを選定し、ランダムにクラリスロマイシン(CAM)群と生理食塩水(SAL)群の2群に分け、さらにAngiotensin IIを2週間持続注入を継続するとともに、10mg/kg/day CAMまたはSALを2週間毎日経口投与した。投与2週間後に大動脈組織を採取し、ELISAで組織中タンパク発現量を測定したところ、SAL群に比べ、CAM群でIL-1β, IL-6の有意な低下およびTGF-β, IL-4の有意な増加を認めたことから、CAMの投与によって、炎症抑制および抗炎症作用促進が推察された。
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