研究課題/領域番号 |
18K16388
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三隅 祐輔 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (20631477)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 機械学習による予測モデルの作成 |
研究実績の概要 |
補助人工心臓(LVAD)装着患者の駆動音データと、臨床的なアウトカムとの関係性に関して、機械学習を用いた予測アルゴリズムを作成した。この研究成果に関する学会発表(米国循環器学会および日本循環器学会)を行った。概要を以下に記す。 LVAD(Jarvik2000)装着患者の駆動音を小型高感度マイクで収録し、カスタムソフトウェアを用いて音響信号を解析した。LVADポンプ回転に伴う楽音及びその他のノイズについて、周波数成分と振幅成分等を抽出した。続いて音響データの数値化(特徴量の抽出)、予測因子の選択(重要特徴量を決定)、これらと臨床的に定義したアウトカム(今年度は、大動脈弁逆流(AR)の有無に設定した)との比較検討を行った。機械学習による予測モデルの作成と検証を行った。 具体的には、LVAD装着患者13例より聴取した音響データ(n=245)を解析した。アウトカムは、心エコーにて中等度以上のARを認めた26(10.6%)を「有意」、残り219(89.4%)を「有意でない」と設定した。時間周波数解析を用いて各音響データから19の特徴量を抽出し、その中からアウトカムとの相関が強い4つの重要特徴量を選択した(アンサンブル法及びt検定)。この重要特徴量を用いて機械学習モデルの比較を行い、アンサンブル学習法を選択し、予測モデルを作成した。交差検定(leave-one-out法)でのモデル性能評価は、陽性的中率86%、area-under-curve 0.71であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画は、①実際の症例で録音されたLVAD駆動音と各症例のLVAD駆動状況や循環動態因子との関連の解明、ならびに、②LVADを組み込んだ模擬循環回路を用いた、LVAD駆動音とLVAD駆動状況や循環動態因子の関連の検証、の二項を設定していた。①に関しては、上記に記載した如く、アウトカムを「大動脈弁逆流症」と設定した研究によって達成されており、また、他の臨床的なアウトカムに関しても幾つかの知見を得ている。他方で②に関しては初年度での実施は見送った。②の概要は、植込み型LVADの教育用模型とその前後に前負荷・後負荷や自己心拍出を再現するchamberやポンプを組み込んだ模擬回路を作成し、前負荷・後負荷の変化や自己心拍出の変化に伴ってLVAD駆動音がどのように変動するのかを解析する、また、模擬血栓を回路内に循環させることで血栓形成に伴ってLVAD駆動音がどのように変化するのか解析する。というものであるが、研究計画立案後の文献により、実験の方法によって再現性が変化しうる可能性が示唆され、実験内容をより詳細に検討する必要が生じたためである。しかしながら、次年度の研究計画としていた③LVAD駆動音から個々の病態を診断するアルゴリズムの作成、に関しては①での「大動脈弁逆流」をアウトカムとした研究成果を用いて機械学習による予測モデルを作成しており、部分的には既に前倒しで計画が達成されていると考えられる。したがって、研究全体の進捗状況は「概ね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究によって、機械学習を用いたLVAD音響の解析にて、LVAD駆動音の変化と「大動脈弁逆流の有無」に関する知見を得ることができた。他の臨床的なアウトカムとしては、LVAD装着患者における慢性期の合併症である血栓塞栓症やポンプ機能不全などの「LVAD flow obstruction」、あるいは「自己心機能の変化」といったものが想定される。「大動脈弁逆流」に対しては機械学習による予測モデルが作成できたが、今後、「Flow obstruction」や、「自己心機能の変化」に対しても解析方法の更なる検討を行い、有用な予測モデルを作成することが目標である。これらのアウトカムに関しては、臨床症例の音響データの解析に基づき、既にいくつかの知見を得ている。 「Flow obstruction」に関しては、臨床的にLVADポンプ血栓を認めた症例、あるいは、LDH上昇を認めた症例の音響データを解析し、各々の正常時と比較検討している。このような症例においては、正常時には認めていかなったノイズが新たに出現したり、LVAD駆動音の不規則な変動が出現したりといった所見が見られる。 「自己心機能の回復」に関しては、LVAD装着後に自己心機能の改善を認めた症例の音響データを解析し比較検討した。自己心機能回復時のLVAD駆動音は、LVAD装着直後と比較して、駆動音周波数において特徴的な変化がみられることが分かっている。 機械学習を用いたLVAD音響データの解析によりLVAD異常検出を可能とし、LVAD合併症の早期診断や在宅患者における遠隔診断システムのための技術的基盤を確立すべく、継続して研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究計画は、①実際の症例で録音されたLVAD駆動音と各症例のLVAD駆動状況や循環動態因子との関連の解明、ならびに、②LVADを組み込んだ模擬循環回路を用いた、LVAD駆動音とLVAD駆動状況や循環動態因子の関連の検証、の二項を設定していた。①に関しては、上記に記載した如く、アウトカムを「大動脈弁逆流症」と設定した研究によって達成されており、また、他の臨床的なアウトカムに関しても幾つかの知見を得ている。他方で②に関しては初年度での実施は見送った。②の概要は、植込み型LVADの教育用模型とその前後に前負荷・後負荷や自己心拍出を再現するchamberやポンプを組み込んだ模擬回路を作成し、前負荷・後負荷の変化や自己心拍出の変化に伴ってLVAD駆動音がどのように変動するのかを解析する、また、模擬血栓を回路内に循環させることで血栓形成に伴ってLVAD駆動音がどのように変化するのか解析する。というものであるが、研究計画立案後の文献により、実験の方法によって再現性が変化しうる可能性が示唆され、実験内容をより詳細に検討する必要が生じたためである。
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