研究課題/領域番号 |
18K16397
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構別府医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
井上 健太郎 独立行政法人国立病院機構別府医療センター(臨床研究部), 臨床研究部, 心臓血管外科医師 (20801658)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動脈瘤 / エピゲノム / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
胸部・腹部大動脈瘤は破裂すると致命的な疾患であるが、動脈瘤増大の病勢進行の抑制に寄与する治療薬は未だ開発されていない。近年、白血病を中心とした悪性腫瘍に対する抗がん薬物療法のターゲットとして、遺伝子配列の変化を伴わない遺伝子発現調節機構であるエピゲノムが注目されている。エピゲノムの中でもDNAのメチル化・脱メチル化機構が、血管壁が受けるshear stressや血管平滑筋細胞の病的脱分化に寄与していることが最新の研究で明らかになっており、特に動脈硬化・動脈瘤病変では正常組織よりもDNAの高メチル化状態となることが知られている。本研究は、DNAのメチル化抑制が動脈瘤進行を抑制することを明らかにし、エピゲノムをターゲットとした全く新しい動脈瘤の薬物療法の開発を目的としている。DNAメチル化抑制剤(DNMT1阻害剤)はすでに骨髄異形成症候群を適応として臨床応用されている。また、エピゲノム関連遺伝子異常がもたらすモノクローナル造血は、骨髄異形成症候群と動脈硬化進行の共通のリスクであることが最新の研究で明らかになっている。従って、本研究では、すでに骨髄異形成症候群の治療薬として実績のあるDNAメチル化阻害剤を用いた動脈硬化治療を試みることを主とすることにした。 2018年度、我々は本研究のはじめとして、In vitroにおける血管平滑筋細胞を用いた動脈硬化モデルを作成し、その分子生物学的機序とエピゲノム変化の関連を評価した。血管平滑筋細胞に対するコレステロール負荷モデルの作成において、コレステロール負荷濃度及び暴露時間の最適化を行い、種々の条件により結果が大きく左右されることを明らかとし、本実験のための条件の最適化を行った。同条件下で、血管平滑筋細胞の健常モデルと動脈硬化モデルの総DNA量レベルでエピゲノム変化があることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitroにおける動脈硬化モデル作成において、既報に従い血管平滑筋細胞に対するコレステロール負荷実験を実施した。同実験の実践後に以下の問題が明らかとなり、安定した実験結果を得るのに時間を要した。まず、コレステロールは脂溶性であり、液体培地への溶解が非常に不安定であったため、再現性のある培地作成に工夫を要した。加えて、既報に従ったコレステロール濃度での負荷では血管平滑筋細胞が死滅したため、コレステロールの濃度調整も要した。その原因としては、細胞種の違いが考えられた。次いで、コレステロール負荷の条件安定後に、経時的にその変化を評価したところ、サンプル採取のタイミングにより大きく結果が左右されることが明らかとなった。そのため、時間的条件の最適化が必要と判断し、当初の予定の実験に先行してこれを行う方針とした。
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今後の研究の推進方策 |
下記の実験系により、NAメチル化阻害剤の動脈瘤の形成抑制への有用性及び動脈瘤形成抑制効果の分子生物学的機序の2点を明らかにするのが本研究の目標である。 (1)In vivo実験:マウスモデルを用いたDNAメチル化阻害剤の動脈瘤の形成抑制への有用性の評価 (2)In vitro実験:血管平滑筋細胞を用いた動脈瘤形成抑制効果の分子生物学的機序の評価 (3)In silico実験:シークエンス・マイクロアレイを用いた動脈瘤形成抑制効果の分子生物学的機序の評価 現在、In vitro実験の最適化が完了したところであり、シークエンス及びマイクロアレイを用いた全ゲノム発現及びメチル化解析を実施中である。先行して行った予備実験において、血管平滑筋細胞の健常モデルと動脈硬化モデルにおけるエピゲノム変化は確認できており、シークエンスの結果によりさらに詳細な情報を得られる予定である。加えて、In vivoの実験を開始し、マウス個体レベルで動脈硬化モデルと健常モデルのエピゲノム評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
In vitroにおける動脈硬化モデル作成にの最適化に時間を要し、In vivo実験等、それに続く実験の物品・試薬購入時期が延期となったため。動物実験は生命を使用した実験となるため、実験動物や飼料を事前にストックするというのは不適切であると考えられる。現在のIn vitro実験の結果がロバストであることを確認しつつ、順次、マウス飼育の準備を進めていく予定である。
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