胸部・腹部大動脈瘤は破裂すると致命的な疾患であるが、動脈瘤増大の病勢進行の抑制に寄与する治療薬は未だ開発されていない。近年、白血病を中心とした悪性腫瘍に対する抗がん薬物療法のターゲットとして、遺伝子配列の変化を伴わない遺伝子発現調節機構であるエピゲノムが注目されている。エピゲノムの中でもDNAのメチル化・脱メチル化機構が、血管壁が受けるshear stressや血管平滑筋細胞の病的脱分化に寄与していることが最新の研究で明らかになっており、特に動脈硬化・動脈瘤病変では正常組織よりもDNAの高メチル化状態となることが知られている。本研究は、DNAのメチル化抑制が動脈瘤進行を抑制することを明らかにし、エピゲノムをターゲットとした全く新しい動脈瘤の薬物療法の開発を目的とした。 2018年度、我々は本研究のはじめとして、In vitroにおける血管平滑筋細胞を用いた動脈硬化モデルを作成し、その分子生物学的機序とエピゲノム変化の関連を評価した。血管平滑筋細胞に対するコレステロール負荷モデルの作成において、コレステロール負荷濃度及び暴露時間の最適化を行い、種々の条件により結果が大きく左右されることを明らかとし、本実験のための条件の最適化を行った。 2019年度、血管平滑筋細胞の健常モデルと動脈硬化モデルの総DNA量レベルでエピゲノム(DNAのメチル化、ヒドロキシメチル化)の変化を評価するべく、全ゲノムシークエンスを実施した。各遺伝子のGene body及びPromoter領域のメチル化、ヒドロキシメチル化のコレステロール負荷後の経時的変化は乏しく、また、遺伝子発現の変化との相関は明確ではなかった。コレステロール負荷による血管平滑筋細胞の脱分化機構におけるエピジェネティクスの機構解明には更なる研究が必要であると考えられた。
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